2010 Fiscal Year Annual Research Report
近世初頭までの禁裏・公家文庫における説話集・霊験譚集・縁起享受の実態調査・研究
Project/Area Number |
20520203
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
内田 澪子 お茶の水女子大学, 大学院・人間文化創成科学研究科, 研究院研究員 (50442497)
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Keywords | 日本中世文学 / 説話 / 霊験譚 / 縁起 / 文庫 |
Research Abstract |
本年度は、前年度までに収集したデータや知見に関して検討を行った。特に、これまで存在は指摘されながら解読・検討の行われていなかった、『古事談抄』紙背文書の読解に努め、南北朝から室町期の天皇家・公家に関わる複数の固有名詞を抽出した。これらの検討から、紙背文書の集積場所に、二条家、中でも南朝に仕えた二条家を擬し、該本の書写時期は、大凡室町期初期とするのが妥当ではないかとの見通しを得た(成稿済投稿中)。文書集積場所と表の『古事談抄』書写エリアはさほど距離をおかぬものと考えられ、南朝に仕えた公家によって『古事談』第二臣節からの抄出が行われた可能性は、『古事談抄』の作品としての理解に影響を与えるのではないかとの新たな課題を得た。 又複数の禁裏や公家の文庫・目録等に収められる縁起等を抽出し検討を行ったが、現時点においては伊勢神宮などを含めた特定寺社と、所蔵文庫・組織との有機的な関係は認め得なかった。一方、特定寺社の縁起流布の様について、長谷寺の場合を検討した。伏見宮家本には『長谷寺縁起絵巻詞書』と共に『長谷寺霊験記』二話分の抜書が認められる。これは通行する『長谷寺験記』の上巻第二話であるが、内容は長谷寺の縁起を語るものともなっており、縁起の一つと理解されていた可能性が高い。高松宮家伝来禁裏本にも『十一面観音縁起』と題された長谷寺の縁起が収められる。室町後期から近世にかけて、所謂『長谷寺縁起文』『長谷寺密奏記』だけでなく、長谷寺縁起は多様な形で流布していたことが知られ、縁起を再検討する余地が認められた。尚、寺社縁起に関しては、『古事談』第五「寺社仏寺」全話について註釈を施した(共著として刊行)。
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