2010 Fiscal Year Annual Research Report
自己検閲の文法:ハーディ中期小説に施された改稿の分析
Project/Area Number |
20520220
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
上原 早苗 名古屋大学, 大学院・国際言語文化研究科, 教授 (00256025)
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Keywords | イギリス小説研究 / バーディ / 書誌学 / 草稿研究 / 本文異同 |
Research Abstract |
本研究はトマス・バーディの中期の小説『搭上のふたり』(Two on a Tower)の原稿および活字テクストの本文異同を研究することによって、バーディに固有の「改変の文法」の分析を目指すものである。 前回の科研費の成果報告を纏めていた最終段階で、バーディの後期小説の本文改変には、これまでの研究によって見逃されてきた点が少なからずあることが判明し、さらなる研究の必要が生じた。そのため一昨年度および昨年度は、研究計画の修正を余儀なくされ、変更の影響は今年度にも及んだ。 今年度はまず『ダーバヴィル家のテス』の本文異同の分析を進めた。具体的には、『ダーバヴィル家のテス』の原稿内部の異動を検討するために、大英図書館に赴いて原稿の紙およびインク、ペン先などの状態からバーディの執筆段階を確定した。次いで、事後的な改変のなかでも、セクシュアリティに関わる表現の修正に焦点を当て、一連の修正が小説テクスト(最終稿)に齎した新たな意味効果について吟味検討した。 上記に加えて、今年度は、当初の予定どおり、『搭上のふたり』の原稿およそ358葉を解読し、出版者(編集者)・植字工の介入ならびにバーディの自己検閲の跡を明らかにした。さらに中期の小説に顕著な、改変の規則性がいかなるものか、を析出するように努めた。 なお、本年度の研究成果は、(1)「バーディによる本文改変を読む」『岩波特集=草稿の時代』、第11巻・第5号、9・10月号、2010年、pp.203-17.(2)"How May We Interpret Tess's Story?", The 11^<th> International Conference : Between Philology and Hermeneutics (Global COE program),(近刊)として纏めた。
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