2011 Fiscal Year Annual Research Report
ヴィクトリア朝文学に見られるイジメの社会的および心理的文脈の研究
Project/Area Number |
20520221
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松岡 光治 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (70181708)
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Keywords | ヴィクトリア朝 / イジメ / 社会的文脈 / 心理的文脈 / 英文学 / ディケンズ / ギャスケル / ギッシング |
Research Abstract |
本研究は、ヴィクトリア朝の文学テクストを一次資料とし、そこで明示的/暗示的に描写されたイジメの場面に焦点を定め、19世紀イギリスの時代精神と社会風潮の影響を受けた人間のイジメという言動の法則性を突き止め、そうしたイジメの言説を表出させている社会的及び心理的文脈を解明するものである。最終年度の研究対象はヴィクトリア朝の作家の中でイジメの場面をもっとも数多く、もっとも興味深く描いたディケンズに絞り、イジメを肉体的・精神的「暴力」の典型として分析した。その過程で、女王を頂点としたピラミッド型の階級を基盤とするヴィクトリア朝社会における人間関係のダイナミクスに「抑圧の移譲による精神的均衡の保持」(丸山眞男)という原理が見られること、『オリヴァー・トゥイスト』の中で「やんごとなき貴族から汚い慈善学校の少年まで階級に関係なく見られる」と語られている人間性が「抑圧の移譲」であることを実証した。その成果は、平成23年'10月15日に京都大学で開催されたディケンズ・フェロウシップ日本支部の秋季総会における「ディケンズと暴力」と題されたシンポジウム(司会・講師)、そして平成24年秋に出版予定の『ディケンズ文学における暴力とその変奏』(大阪教育図書、編著)に結実している。また、最終年度の最初に執筆した論文"Bedlam Revisited: Dickens and Notions of Madness"が国際雑誌乃 The Dickensian(出版は2013年予定)での掲載が決定した。これはヴィクトリア朝における権力の実践に伴う支配者の屈折したイジメの心理を狂気として捉えたものだが、現代の日本社会におけるイジメ問題を解決するための糸口となる示唆的で意義のある結果を導き出せた。
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Research Products
(4 results)