2008 Fiscal Year Annual Research Report
シェイクスピア演劇における不安定な国民像に関する考察
Project/Area Number |
20520226
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
廣田 篤彦 Kyoto University, 文学研究科, 准教授 (40292718)
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Keywords | 英文学 / シェイクスピア / 国民像 |
Research Abstract |
本研究は、シェイクスピアの演劇テクストが初期近代におけるイングランド国家ならびにイングランド国民という概念の不安定さをどのように表しているかを明らかにすることを目指している。本年度は主として歴史劇に焦点を当てて研究を進め、以下の研究成果をあげた。 (1)作者不詳の歴史劇『ウッドストック』における政治的な対立が服装に表されていることから、様々なジャンルのテクストにおける服装と国民的アイデンティティについて考察した。1)イングランド人が周辺諸国のファッションの継ぎ接ぎを身に纏っていることが逆説的にイングランド人らしさを表すにいたったことと、2)イングランドの美徳を体現しているとされるフリーズ地の生地がウェールズやアイルランドを代表している例があることをあわせて論じ、こうして示されるイシグランド人らしさの曖昧さにシェイクスピア演劇が果たした役割について考察した。この考察を"Tardy Apish Nation in a Home-Spun Kingdom"と題する論考にまとめ、2009年5月にパリ第三大学ならびにモンペリエ第三大学における講演で発表する。 (2)キルケーやサイレンといった古典古代文学の魔女たちが、16世紀においてイングランド人のアイデンティティを脅かす外国の魅力を体現するものとして描かれていることに着目し、シェイクスピア演劇においてこれらのイメージがどのように使われているかを考察した。『ヘンリー四世・第一部』において、エドマンド・モーティマーをその歌声で魅了するグレンダウアーの娘とサイレンの誘惑とを関連付け、さらに、ハル王子とフォールスタッフをこの伝統の中に位置づける試みを行っている。この一部を"Circes in Ephesus"と題する論考にまとめ、2009年4月のアメリカ・シェイクスピア学会におけるセミナーで発表する。 (3)Shakespeare Studies, vol.46においてオークランド大学のTom Bishop教授とともに"Pacific Shakespeare"と題する特集の編者を務めた。太平洋地域4カ国の研究者の論文をまとめ、IntroductionをBishop教授と共同執筆した。
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Research Products
(1 results)