2008 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリス文化における「快」とフィジカリティの研究
Project/Area Number |
20520227
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小口 一郎 Osaka University, 言語文化研究科, 准教授 (70205368)
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Keywords | 功利主義 / フィジカリティ / 身体 / 近代 / 生命観 / ロマン主義 / 環境 / 快と苦 |
Research Abstract |
平成20年度は、「快」の概念と、身体・物質・環境にまつわるフィジカリティの概念が、西洋の思想史上緊密に関連している事情を研究した。して、この概念複合が、イギリス近代の文化史における、フィジカリティと「快」の功利主義を生み出していく経緯をあとづけ、研究の枠組設定を行った。 まず、古典古代以来のエピキュロス派系統の思想において、「快」と唯物・身体論の接点を確認し、西欧文化の根底に横たわる「快」とフィジカリティの思想的マトリックスを読みとった。あわせてこれを、西欧芸術のパストラリズムにおける幸福論、および芸術受容における「快」感覚論と関連づけた。次に、この通史的マトリックスを基盤に、近代イギリスの、ホッブズ、ロック、ハートリーの身体思想をとりあげ、物質・身体と、「快」「不快」にもとづく、近代の功利主義的人間観の成立経緯を研究した。その上で、この人間観を、18世紀における進歩主義、自由意志、生命・環境科学と関連させるところまで研究を進めた。 具体的な研究成果は、まず、英語教員向けの啓蒙書において、身体と環境から文学を読む新しいアプローチを発表し、つづいて18世紀の自然哲学における身体・生命論と、「快」の功利主義の関係を、エラズマス・ダーウィンについてのシンポジウムで論じた。本年度の最終的な成果は、「快」とフィジカリティの通史と、イギリス・ロマン主義の自我意識を扱った英語著作の中でまとめている。また、本研究で得られた知見の一部は、18〜19世紀の環境文化を論じた英語研究書の翻訳と訳注において生かされたことも付記しておきたい。
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