2009 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリス文化における「快」とフィジカリティの研究
Project/Area Number |
20520227
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小口 一郎 Osaka University, 大学院・言語文化研究科, 准教授 (70205368)
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Keywords | 快と苦 / 身体 / 環境 / 救済論 / ロマン主義 / 功利主義 / 詩学 / 進化論 |
Research Abstract |
20年度に実施した通史的研究を受け、21年度は、18、19世紀のイギリス文化・思想を考察した。主要なテーマは以下の3点である。1)18世紀の進歩主義と救済論における「快」の役割、2)「快」とフィジカリティから見た功利主義思想、3)ロマン主義の詩学における「快」とフィジカリティ。("The Pleasures of…"と題された、哲学的論考・文学作品についての研究」をテーマの一つに予定していたが、資料収集が完了しなかったため、22年度まわしとした。) 1) 行動と心理における「快」と「苦」は、17世紀にThomas HobbesとJohn Lockeによってイギリス思想の中に体系づけられたが、18世紀になると楽観主義と進歩主義を背景に、「快」は進歩と救済の手段としての地位を付与されていく。また「快」は、同時代の生理・生物学、心理学を経由することによって、環境と身体と精神に関わる複合的現象として再定義された。この経緯と意義を、David HartleyとJoseph Priestleyの心理学と救済論、Erasmus Darwinの生物進化論と環境論、そして同時代の「動物磁気」をめぐる生命観の中に跡づけた。 2) 18世紀の功利主義哲学を考察し、プリーストリー、William Paley、Jeremy Benthamらの思想の一部を、フィジカリティの観点から再解釈した。 3) ロマン主義の初期において「快」の詩学を提唱したWilliam Wordsworthの理論を、上記1)および2)の観点から再考するとともに、ロマン主義後期のJohn Keatsの救済論との比較を行い、ロマン主義について新解釈を提示した。 以上の研究成果は、雑誌論文1件、学会発表1件において公開し、さらに公開講座の中で広く社会に還元するとともに、博士前期課程の授業において大学院生に教授した。
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