2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代イギリス文化における「快」とフィジカリティの研究
Project/Area Number |
20520227
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小口 一郎 大阪大学, 大学院・言語文化研究科, 准教授 (70205368)
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Keywords | 快と苦 / ロマン主義 / 功利主義 / 詩学 / 身体 / 自然哲学 / 先験論 / 経験論 |
Research Abstract |
1、「快」の文学ジャンル:18・19世紀には"The Pleasures of…"と題された論考や詩が多数出版されたが、本研究ではこの種の作品を独立した文学ジャンルとして扱い、2つの観点から考察した。1)Hobbes、Lockeを嚆矢とする18世紀功利主義にこのジャンルを位置づけた。また、2)ロマン主義によるこのジャンルの継承を考察することで、Cowper、Wordswor、P.B.Shelleyの詩と詩論を"pleasure poem"、"pleasure poetics"と再定義した。 2、"Felicific calculus"とロマン主義:Benthamの「快の計算」は、自然哲学における身体論を取り入れつつ、人間の行動を「快」と「苦」の計量的関係に還元した。ロマン主義はこの観点を継承し、感覚・環境というフィジカルな次元に立脚した「快」の芸術を構築した。「快」は「進歩・救済」の観念を通して、革命期ヨーロッパの歴史性と関係するが、ロマン主義は功利主義を媒介とすることにより、「快」のフィジカリティに歴史性と「モダニティ」を付与した。 3、「快」の変容:イギリス・ロマン主義は功利主義とは別種の「快」の思想をも打ち立て、ドイツ思想と並ぶ展開を示した。Kantは「快」を自由意志に立脚させることにより功利主義を超克し、ワーズワスとColeridgeもカントと比肩する新しい「快」の詩学と美学を生み出す。19世紀阿片文学は「快」を罪悪感に結びつけ功利主義の基盤を堀り崩すが、他方Keatsは、"unpleasure"に人間の尊厳を見出す実存的観点を提示し、20世紀文化の展開を予言した。こうしてキーツのロマン主義は、17世紀末に始まる「快」の文化の一つの帰結を示すものとなった。 (なお成果の出版と発表は、事情により次年度に持ち越される。)
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