2010 Fiscal Year Annual Research Report
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20520233
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Research Institution | Kushiro Public University of Economics |
Principal Investigator |
市川 千恵子 釧路公立大学, 経済学部, 准教授 (10372822)
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Keywords | 女性運動 / 女性医師 / 小説 / 新しい女 / マーガレット・トッド / アラベラ・ケニーリー / 19世紀医学 / 優生学思想 |
Research Abstract |
昨年度の研究の中心は、女性医師と「新しい女」の関係に着目し、女性医師兼作家のMargaret ToddとArabella Kenealyによる小説、その他の著作物を検証し、医学という男性優位の領域に参入した女性の表象を時代の文化的・社会的コンテクストとともに考察することであった。Josephine Butlerの運動が家庭の外の性を中心とし、女性の性的欲望については積極的に考慮しなかった事実に対し、1890年代の「新しい女」をめぐる小説と論説は、まさに知と性の両方にアクセスする女性の欲望を描きだし、夫婦間での性関係を問い直したのである。昨年度の研究成果は以下の通りである。(1)Margaret ToddとArabella Kenealyはそれぞれフェミニズムに対するスタンスは異なるが、両者の小説における女性医師の表象には女性の身体の守護者としての使命が見出され、同時にそのことが物語の展開上でも重要な役割を果たすことが明らかになった。(2)Women Writers of the Fin de Siecle International Conference(2010年6月、ロンドン大学)おいて、Margaret ToddのMona Maclean : Medical Studentについて研究発表を行い、トッドの小説に描かれたヒロイン像を検証し、彼女の職業と結婚の選択にはジェンダーのヒエラルキーを転覆する欲望が刻まれており、さらに女性医師パイオニア世代の著作に見出される女性医師の社会的かつ職業上の役割のレトリックを巧妙に利用していることも明らかにした。(3)Arabella Kenealyはバトラーの運動に賛同し、性の二重規範に挑戦しつつも、小説と医学的論説において優生学への傾倒が顕著であり、女性の役割を「帝国の母」に結び付けていく。そこにはフェミニズムに対する彼女の複雑な思想が見いだされる。この点については、7月末にロンドンで開催される国際学会("Sex, Caurtship and Marriage in Victorian Popular Culture", the third annual conference of Victorian Popular Fiction Association)において、"'Eugenic Marriage' in Arabella Kenealy's Dr.Janet of Harley Street"と題した研究発表を行うことが決定している。
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Research Products
(5 results)