2008 Fiscal Year Annual Research Report
小説に投影された大英帝国の不安-19世紀末から20世紀初頭の英国小説をめぐって
Project/Area Number |
20520247
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
松本 和子 Tokyo University of Science, 工学部・第一部, 准教授 (90385542)
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Keywords | 英米文学 |
Research Abstract |
研究活動初年度の当該年度は、研究実施計画に記したとおり研究全体の目を果たすための第一段階にあたる。不安の諸相の検証ということでRudyard Kiplingの小説The Disturber of Trafficを主たる研究対象に定めて論文を作成、大学機関誌投稿の機会を得た。 この論文は、秩序に対する恐怖によって狂気に導かれ、廃人同様になった男性登場人物に焦点を当て、彼を追い詰め蝕んでいった不安を、大英帝国崩壊期にあたる作品執筆当時の社会状況に照らして論じる内容となっている。執筆に際する研究意義としては、1.帝国没落の社会不安と男性的要素(masculinity)に欠けた登場人物誕生との相関関係2.帝国主義者としての言動を躊躇なくとっていたKiplingが、帝国主義的価値観に背を向けた人物を少なからず創造し、しかも彼らを断罪していないという事実、そして3.帝国主義のアンチテーゼともいえる非男性的登場人物を排斥しなかったリーディングパブリックの存在、がそれぞれ明らかになったことに求められる。 研究の重要性としては、フィクションの世界を舞台とした個人レベルでのアイデンティティクライシスが、現実の中で起こっている大英帝国のアイデンティティクライシスとちょうどパラレルの関係でとらえられる可能性を押し広げた点が指摘されうる。高度な言語操作能力により隠ぺいされている場合が多いこの不安を読み解く過程で、社会不安を投影した一芸術形態として19世紀末から20世紀初頭のイギリス小説を位置づけるために、よりいっそう幅広く社会の動きに注目しながら次年度の研究の推進をはかる。
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Research Products
(1 results)