2010 Fiscal Year Annual Research Report
小説に投影された大英帝国の不安-19世紀末から20世紀初頭の英国小説をめぐって
Project/Area Number |
20520247
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
松本 和子 東京理科大学, 工学部・第一部, 准教授 (90385542)
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Keywords | 英米文学 |
Research Abstract |
平成22年度は、科学研究費補助金による研究活動の最終年度にあたる。したがって1. 進行中の計画の遂行2. 平成20年度以来の取り組みの総括3. 次年度以降の研究テーマの模索・選定という三側面を踏まえて活動した。全般的に当初の研究実施計画に沿った形で研究を実施、口頭・論文発表各一件が具体的な成果である。 日本英文学会第82回大会で行った口頭発表「復讐の意味-『メアリー・ポストゲイト』におけるメアリーの変貌」は1と2の要素を併せ持つ。対象作品に『メアリー・ポストゲイト』を選んだのは、目下の研究テーマである「不安」が戦争という非日常的状況で増幅され、主要登場人物の言動を通じて表出されたプロセスの分析に研究趣旨にかなう意義と重要性を認めたからである。平成20年度に考察したmasculinityの弱体化と社会不安の問題、平成21年度に焦点を当てた不安に根ざしたidentity crisisはどちらも当該発表の重要な部分を占め、これら二つの要素に作品のテーマである復讐行為を関連付けた発表を目指した。 一橋大学『人文・自然研究』No.5に投稿した「Mary Postgateにおけるメアリーの復讐と自己表現」は、上記発表で得られたフィードバックを下敷きに、作品への新たな知見を得ることを狙った論文である。3として挙げた次年度以降の研究テーマの模索・選定を念頭に、口頭発表時よりも主人公メアリーに対する注目度を高めて執筆を試みた。理想的なコンパニオンから非情な復讐者への激変ぶりをメアリーの自己実現と位置づけた結果、「女性と暴力表象」「帝国主義下における女性の抑圧・葛藤・自己実現」といった、次の研究につながるキーワードが見出せた点に研究の意義があると考える。キプリング研究の観点からみると、自己実現という視点を持ちこんだ結果、同作品が復讐譚であり且つ自己実現の物語である可能性が裏付けられたことは、復讐譚の系譜に並ぶ他作品へのアプローチを多様なものにしうる点で重要性がある。
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Research Products
(2 results)