2010 Fiscal Year Annual Research Report
中世異界夢文学と黙示文学との比較研究を基盤とした異界図像集作成
Project/Area Number |
20520269
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Research Institution | Fukuoka Dental College |
Principal Investigator |
壬生 正博 福岡歯科大学, 歯学部, 教授 (30249784)
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Keywords | 英米文学 / 異界研究 / 中世夢幻視文学 / 聖書正典 / 聖書外典 / 聖書偽典 / 写本図像(細密画) |
Research Abstract |
本年度は、前年度に引き続き、黙示録文学(Apocalypse)の中の中世写本『ヨハネ黙示録』に特に焦点を当てて、写本図像(細密画:miniature)の所在やフォリオ番号の確認、および収集等を行った。昨年度と同様に収集したのは、天の都エルサレムを描いている図像である。なぜなら『ヨハネ黙示録』の天の都エルサレムの描写は、当該研究が扱う12世紀頃の著名な夢幻視文学St Patrick's PurgatoryやThe Vision of Tundale、その他の作品のパラダイス描写に多大な影響を与えたからである。これらの諸作品の写本には、図像と言えるものはほとんど描かれていないが、当時の『ヨハネ黙示録』には多くの興味深い図像が掲載されているので、当時のパラダイス観を可視的に調査研究できる。特に今年度は、ケンブリッジ大学が所蔵する貴重なTrinity Apocalypseから当該研究と関連のある美麗な図像を収集できた。この黙示録文書は、13世紀頃にイギリスで作成されたと言われており、上述した夢幻視文学の諸作品の創作年代とほぼ同じである。また、Trinity Apocalypseには昨年度に大英図書館から収集した図像とは異なるパラダイスの構図があることがわかった。次ページに記した論説では、以下の点を考察した。中世西欧で創作された6世紀から13世紀頃までの夢幻視物語の数作品を考察の題材に取り上げ、(1)異界への移動、(2)異界の道案内、(3)陰惨な世界、(4)光溢れる世界、そして(5)異界から現実世界への帰還、の5項目に分けて夢幻視物語の展開・構成上の特徴について論じた。この考察によって、夢幻視物語の諸作品が、数世紀もの間、同等の観念を基に創作された点が明確となった。また、これらの作品に描かれたパラダイスの諸要素は、やはり『ヨハネ黙示録』と記述上の関連性が非常に強いと推察できる点を再認識できた。
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Research Products
(1 results)