2009 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀前半の技術革新と文化現象としての〈ブレヒト・チーム〉の関係
Project/Area Number |
20520279
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
中島 裕昭 Tokyo Gakugei University, 教育学部, 教授 (50217725)
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Keywords | ブレヒト / ドイツ演劇 / 技術革新およびメディア・テクノロジー / パフォーマンス的転回 / 芸術コミュニケーション |
Research Abstract |
平成21年度の本研究に関わる作業は、1)ブレヒト・チームによる演劇実践(戯曲と上演)への技術革新の反映の検証、2)ブレヒトによる演劇理論化の作業への、技術革新と演劇についての反省の検証、3)ベルリン・ブレヒト・アルヒーフでの資料確認であった。 1)については演劇を含めた諸芸術の「パフォーマンス的転回」(芸術実践を含めた人間のさまざまな活動が「パフォーマンス」として他から見られ評価されるものとして実践されるという認識に基づいて、芸術創作でも学術研究においても自身の活動をパフォーマンスとして意識するようになること)が、19世紀から20世紀初頭にかけてあったこと、そしてその際、無線・電話・ラジオ・映画・照明など、コミュニケーション技術の革新が大きな役割を果たしたこと、とくにブレヒトの演劇的コミュニケーションの理論展開においては、映画とラジオの登場・普及によって人間の知覚経験のあり方が大きく変化し、結果として直接的なコミュニケーションの場としての演劇(とりわけ小規模でインタラクティヴな演劇)の価値が再認識されたことが確認された。 2)については、上記1)に見られるような演劇コミュニケーション上の展開を、ブレヒト自身がどの程度認識していたか、という点を、ブレヒトの演劇作品だけでなく、作業日誌や他の芸術家・技術者との手紙などを通じて検証し、他の技術専門家の知見を自己の演劇コミュニケーションの中に取り込むブレヒトの能力を確認することができた。そのような新しい芸術コミュニケーション環境に、ブレヒトが演劇伝統の資産としての類型をどのように適応させたか、という視点でブレヒトの戯曲作品を見直すことができた。 しかし3)については、1)と2)の作業に手間取った結果、渡独して作業する時間を取ることができず、果たせなかった。22年度に何らかの形でこれを補い、研究全体を完結させる予定である。
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