2011 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀後半から20世紀初めのロシアにおける身体と表象の関係の構造転換
Project/Area Number |
20520281
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
番場 俊 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (90303099)
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Keywords | ロシア文学 / 表象文化論 / ドストエフスキー / 文学と社会 / 道徳統計学 / 告白 / 文学と精神分析 / 身体 |
Research Abstract |
19世紀後半から20世紀初めのロシアにおける身体と表象の関係の変容を明らかにするために、とりわけ、20世紀初めの転換が19世紀にいかに準備されていたかを明らかにすることに努力を傾倒して、以下の研究をおこなった。 1.「文学と社会」という問題の生成を明らかにするために、ベリンスキーの文芸批評からはじめて、ベルギーのケトレ、イギリスのバックル、ドイツのワグナー、ロシアのザイツェフらの道徳統計学(ケトレの用語では社会物理学)における「社会」や「タイプ(平均人)」といった概念を検討した。今日に至るまで標準的な「小説」概念に引き継がれているベリンスキーの「社会」概念は、実際には今日の「社会」観とは相当異なる。また、ドストエフスキーの小説は、バックルやザイツェフらの統計的運命論に対する抵抗という側面をもっている。 2.前年度にひきつづき、「告白」を中心に、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』(1879-80年)における言語行為の分析をおこない、19世紀ロシアの修道院において「長老制度(スタールチェストヴォ)」がひきおこした「痛悔機密」(告白confession)制度の揺らぎが、1864年の裁判制度改革にともなう「自白confession」とならんで、小説テクストのなかで問題化されていることを明らかにした。 3.「小説」と「社会学」と「精神分析」を、社会の全体性の把握を志向する三つの競合するディスクールととらえ、その関係を検討した。とりわけ、それぞれのディスクールに特徴的な「時間」の現れかたに注目し、道徳統計学と精神分析にみられる「事後性」に抗う小説的なオルタナティヴとしての「現在」について、おもに『カラマーゾフの兄弟』にそくして検討した。 4.「身体」と「表象」の変容に関する理論的検討のために、中世のイコンから20世紀のマレーヴィチに引き継がれた「反-表象」の姿勢について検討した。
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