2011 Fiscal Year Annual Research Report
ヨーロッパにおける〈愛〉の寓意の変容と衰退-中世末から近世へ-
Project/Area Number |
20520282
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
前野 みち子 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 教授 (40157152)
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Keywords | 七つの大罪 / 『プシコマキア』 / ルクスリア / 中世商業都市 / 北ヨーロッパ |
Research Abstract |
最終年度に当たる23年度は、次期の研究課題への橋渡しとすることを意識して研究を進めた。すでに21年度から、この課題の遂行のためには当初の実施計画に大きな変更を加え、中世末までのキリスト教世界における異教的ウェヌス及びアモル像の変容に注目することが必要だと考えるに至ったので(22年度末自己評価報告書に記載)、引き続きその視座から、恋愛と奢修とモラルという三つのパラメータを用いて、中世に大きな影響力をもったプルデンティウスの『プシコマキア』(400年頃に成立)の写本挿絵を比較検討し、その分析結果を紀要論文にまとめた。ここでは、9~11世紀まで数多く制作された写本の特に<ルクスリア>の挿絵を中心に扱い、先行研究において指摘されている二系統の挿絵のうち、とりわけアングロサクソン系統とされるものに同時代の<ルクスリア>観を窺うことができること、それは当時成立しはじめた北ヨーロッパ諸都市の市民たちにとっての快楽の願望像と見られること、さらにこの快楽像には、古代ギリシア・ローマにそのルーツを求めることのできる音楽・ダンス・性的快楽のイメージ複合が異教的悪徳として反照していることを示した。また、この作品のテーマである七つの悪徳に対する美徳の勝利が、12世紀以降は写本の世界から教会建築レリーフのモチーフとして万人向けのモラルを形成するに至ること、なかんずく<ルクスリア>への戒めが次第にこの悪徳に特化した図像を生んでいくこと、そこでの<ルクスリア>は『プシコマキア』成立当初の奢修一快楽ではなくもっぱら淫蕩を意味するものとなっていること、つまり<ルクスリア>という悪徳は恋愛(性的逸脱)と奢修を戒める都市のキリスト教モラルによって焦点化されていったことを、同時代の商業都市の興隆を背景において考察した。このことについては教会レリーフの図像分析を含めて現在論文を執筆中であるが、今年度から開始する研究課題「<放蕩息子>の寓話と北ヨーロッパ商業都市の変容」)が拠って立つ基本認識を用意するものとなるはずである。
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