2008 Fiscal Year Annual Research Report
ギリシア・ローマ文学における他者との共生に関する研究
Project/Area Number |
20520285
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 Nagoya University, 文学研究科, 教授 (40127064)
|
Keywords | 西洋古典 / ギリシア / ローマ / 他者 / 共生 / ホメロス / ウェルギリウス / ヨーロッパ |
Research Abstract |
ギリシア初期からローマ帝政時代までの叙事詩文学を対象として、個人および共同体の諸関係における共生の観念を探り、その変容を跡づけた。 (1)まず前8世紀末のホメロスの叙事詩には、その後のギリシア古典期(前5〜4世紀)に高度化する自己と他者の二項対立の構図の萌芽が見られる。とくにこの構図は、他民族との関係を戦争と平和という両極の状況としてとらえた場合顕著である。ホメロスのトロイア戦争の神話的物語『イリアス』では、戦争と平和の間に深く乗り越えがたい溝が存在していることがテクストの分析から明らかになった。他方ウェルギリウスのローマ叙事詩では、戦争の価値は平和の確立という明確な目的によって相対化され、他民族との融和の意識が強く表れていることを検証することができた。 (2)ウェルギリウスの『アエネイス』を対象として、ローマ時代の共生の観念について詳細に考究した。この作品では、ローマ帝国という多民族を統合した市民共同体の成立を背景として、個人・家族・社会・民族などの次元でギリシア文明時代とは異なる他者像が描かれており、それらを文学テクスト内外の歴史的文脈(コンテクスト)と関連づけることによって、ローマ文明の広がりの中での新たな共生意識の形成と発達を浮かび上がらせた。この考察の成果は、岩波書店より単著『ウェルギリウス『アエネイス』-神話が語るヨーロッパ世界の原点』として出版した。 (3)さらに今年度は、イタリア・フランス・スイスの古代ローマ遺跡・考古学博物館等において、とくにヨーロッパ先住民・異民族の社会的・文化的コンテクストとローマ文明のコンテクストとの接触と共生に関する事象を探るために歴史・考古学的現地調査を行ない、文献学的研究を補強した。
|
Research Products
(5 results)