2011 Fiscal Year Annual Research Report
ギリシア・ローマ文学における他者との共生に関する研究
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20520285
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 正廣 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (40127064)
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Keywords | 西洋古典学 / ギリシア / ローマ / 他者 / 共生 / 比較文明 |
Research Abstract |
プラトン、アリストテレスからストア、エピクロス学派等を経てキケロ、セネカおよびキリスト教父などローマの思想家・宗教家までの著作の中で展開された人間の自由と人類共生に関する言説を比較検討し、さらにそうした思想・宗教の背後にあった古代文明史上の歴史的変化についても調査した。具体的には研究の概要は以下の4点に要約できる。 (1)プラトンの『法律』と『国家』、アリストテレスの『政治学』を中心にギリシア古典期の思想における人間の自由の問題、異民族・奴隷観、人類共生の問題について考察した。 (2)ヘレニズム期ストア学派のコスモポリタニズム、エピクロス学派の友愛思想、ローマ時代のキケロのフーマニタースの概念、セネカの『恩恵について』における奴隷との共生の思想、アウグスティヌスの『神国論』『告白』における異教との共生の問題を検討した。 (3)中国の伝統文化と西洋文明との接触と共生に関して、比較文明論的観点から考察した。 (4)地中海アジアにおけるギリシア・ローマ文明と異民族文化との接触や摩擦および共生に関する調査のため、トルコ共和国の中央部アナトリア高原、東部シリア国境付近、西部エーゲ海岸に位置するヒッタイト時代、ペルシア帝国時代、ヘレニズム・ローマ時代、ビザンチン時代の古代遺跡および考古学博物館を訪問し、文字文献資料を収集するとともに、古代諸都市の遺構・墳墓群・地理的景観・発掘出土品に関して約6,000枚の詳細な画像資料を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究の目的」における5つの課題のうち、(1)叙事詩および(2)教訓詩における共生の観念の変遷の考察に関しては、古代叙事詩の成立基盤になった文字使用の発達に関する学術的討論の成果も付随的に加えつつ、ほぼ4年間費やして当初の計画以上に進展した。だがその反面、(3)悲劇と喜劇および(4)思想と宗教については、資料の蓄積と基礎的な分析・考察は進んではいるものの中間的なとりまとめ作業にやや遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
上記11で述べた(3)と(4)および来年度の課題のとりまとめを促進するために、現在次の2点の方策を構想している。 (1)悲劇・喜劇における優位・劣位の他者との共生のテーマについては、すでに刊行した『ギリシア・ローマ世界における他者』所収の論文「他者イメージの変容」の論旨を他の諸作品にも敷衍して展開する。 (2)思想家・宗教家における人間の自由と人類共生に関する言説の比較検討に関しては、ギリシア以来の諸教説をセネカの倫理論説(とくに『恩恵について』)を中軸に据えて集約的に検討する。
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Research Products
(2 results)