2008 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア・アヴァンギャルドの言語革新-言語的逸脱とその美的機能
Project/Area Number |
20520288
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
GRECKO Valerij Kobe University, 国際文化学部, 講師 (50437456)
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Keywords | ロシア文学 / アヴァンギャルド / コミュニケーション理論 / ロートマン / ハルムス / 国際情報交換 / ドイツ |
Research Abstract |
本研究は、ロジア・アウァンキャルド芸術運動において行われた諸表象(特に言語表現)について「体糸からの逸脱」に注目し、その事例を総合的分析して、複数の作家、ひいては異なる芸術ジャンルに属する創作者たちに共通する「逸脱」の特徴および傾向を明らかにすることを目的とする。20年度の課題はロシア・アヴァンギャルド作家個々人の文学作品における言語表現の「逸脱」事例を言語学的・記号論的手法に基づいて抽出し、分析・考察することだった。主な分析対象は1910年代から30年代までのロシア語詩人・作家たちで、本年度は特にダニイル・ハルムスに重点を置いた。分析の際の理論的基盤とした、ユーリ・ロートマンのコミュニケーション理論を援用した。その結果、明らかになったのは次のような点である。 1.ロートマンの非対称的コミュニケーション・モデルが、ロシア・アヴァンギャルド作家たちの言語的「逸脱」を考察する上で、フレームワークとして非常に有効である。 2.ロシア・アヴァンギャルド研究においては「中心と周縁」という概念が、言語的規範からの「逸脱」を考察する上でも、芸術的規範からの「逸脱」を考察する上でも、重要かつ生産的な役割を果たし得る。 3.文化的なコンテクストから「翻訳」の問題について再考する必要がある。なぜなら、「翻訳」は一方でコピーでありながら、もう一方では文化の創造的「逸脱」でもあるからである。 それぞれの研究結果に関しては、以下のような成果発表を行った。 1.ロートマンのコミュニケーション理論については、コンスタンツ大学(ドイツ)で開催された国際会議において研究発表を行った。 2.ロシア・アヴァンギャルドと「中心と周縁」の関係については、ベルリン自由大学(ドイツ)で開催された国際コロキウムで研究発表を行った。 3.「翻訳」の問題に関しては、「人文・社会科学振興のためのプロジェクト」研究領域V-1・第2グループ「越境と多文化」に協力する形で論文を発表した。また、ロシアや欧米諸国では非常に高い評価を得ている作家でありながら、日本ではまだ知名度の低いダニイル・ハルムスを紹介するために、彼の作品を神戸大学人文学研究科の増本浩子准教授と共に日本語に翻訳し、言語的にも文学規範から見ても「逸脱」に満ちたハルムス文学の特徴を解説して、文芸雑誌や一般人向サイエンス・カフェなどで公表した。
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