2009 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア・アヴァンギャルドの言語革新―言語的逸脱とその美的機能
Project/Area Number |
20520288
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
GRECKO Valerij Kobe University, 国際文化学部, 講師 (50437456)
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Keywords | ロシア文学 / 記号論 / コミュニケーション理論 / アヴァンギャルド / 国際情報交換 / ドイツ:エストニア:ロシア |
Research Abstract |
本研究は、ロシア・アヴァンギャルド芸術運動において行われた諸表象(特に言語表現)について「体系からの逸脱」に注目し、その事例を総合的に分析して、複数の作家、ひいては異なる芸術ジャンルに属する創作者たちに共通つる「逸脱」の特徴および傾向を明らかにすることを目的とする。21年度の課題は20年度に引き続き、ロシア・アヴァンギャルド作家の作品における言語表現の「逸脱」事例を言語学的・記号論的手法に基づいて抽出し、分析・考察することだった。21年度は特に、アヴァンギャルド運動の先駆者(言語学者ボードゥアン・ド・クルトネと作家テェーホフ)と後継者(ロシアおよび移住先で活動している現代ロシア作家たち)も考慮に入れた。その結果、次のような点が明らかになった。 1.ボードゥアン・ド・クルトネはその言語学的・記号論的理論によって、言語的規範の限界近くにある現象が非常に重要な機能を持っていることを明らかにした。マージナルな領域にある言語が、その後アヴァンギャルドの芸術家たちに注目され、作品に取り入れられた。 2.チェーホフは一般にはリアリズムの作家として知られているが、彼の作品は実際にはアヴァンギャルド的な要素を多く持っている。アヴァンギャルドの作家たちはチェーホフの作品の中の特定の要素を引き継いだのである。 3.アヴァンギャルドの「伝統」が現代のロシア作家たちにどのような形で受け継がれているかを考察した結果、現代の作家たちはアヴァンギャルドの作家たちによる言語的実験のうち、意味論的な側面にはあまり関心を持っておらず、その代わりに統語論的・語用論的な側面から大きな影響を受けていることがわかった。特に興味深いのは、ロシア語を公用語としない国に移住した作家たちによる言語実験である。なぜならば、彼らの言語はアヴァンギャルドから影響を受けているのみならず、日常的に自分を取り巻いている外国語からも影響を受けているからである。 それぞれの研究結果に関しては、以下のような成果発表を行った。 1.ボードゥアン・ド・クルトネの言語理論については、日本ロシア文学会で研究発表し、論文をJapanese Slavic and East European Studiesに発表した。 2.チェーホフの作品におけるアヴァンギャルド的要素については、タルトゥ大学で開かれた国際会議で発表した。 3.外国に移住したロシア作家に関しては、基盤研究(B)「世界文学における混成的表現形式の研究」(研究代表者:土屋勝彦)に協力する形でシンポジウムで発表し、論文にもまとめた。また、それをさらに発展させたものを、トリーア大学で開催された国際会議においても発表した。
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