2010 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア・アヴァンギャルドの言語革新―言語的逸脱とその美的機能
Project/Area Number |
20520288
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
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Keywords | ロシア文学 / 記号論 / フォルマリズム / アヴァンギャルド / 国際情報交換 / ドイツ:セルビア:ロシア |
Research Abstract |
本研究は、ロシア・アヴァンギャルド芸術運動において行われた諸表象について、「体系からの逸脱」に注目し、その特徴および傾向を明らかにすることを目的とする。22年度の課題はアヴァンギャルド作家たちの言語実験を理論的および芸術史的観点から考察することだった。また、アヴァンギャルド作家の具体的な事例としては、ダニイル・ハルムスの作品に注目した。研究の成果は次の通りである。 1.「ドミナンテ」という概念は、画家マレーヴィチがその理論的な著作の中で展開している「付加的要素」という考え方に非常に似ていることがわかった。したがって、「ドミナンテ」は必ずしも文学作品だけではなく、芸術作品一般に見られる特徴であると言える。 2.チェーホフはアヴァンギャルド芸術の言語実験の先駆者として位置づけることができる。チェーホフの文体には、その後のアヴァンギャルド作家たちに特徴的な要素が認められる。 3.アヴァンギャルド芸術の後継者としては言語学者ニコライ・マールを挙げることができる。マールは「新しい言語」を構想したが、この構想はアヴァンギャルド言語実験の延長線上にあると考えられる。 4.マールが活動したのがスターリン時代だったため、彼の理論は政治的に解釈され、スターリンの民族政策や言語政策に利用された。 5.言語的な「逸脱」を最大の特徴とするアヴァンギャルド作家ハルムスは、ロシアやヨーロッパ諸国では非常に有名であるにもかかわらず、日本ではまだあまり知られていない。彼の独特な作品を日本の読者によりよく理解してもらうため、その言語的・文体的特徴や時代背景などを詳しく解説した翻訳書を出版した。
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