Research Abstract |
本年度は主にロンサールの作品に頻出するバラとユリの共出現の問題を研究し,一本の論文(フランス語)を執筆した。 A,E. Creoreのインデックス(1972)によれば,ロンサールの作品に於いて,バラの出現数は265であり,ユリの出現数は136となっている。この内,89例が両者の共出現となっており,これはユリの出現数の65パーセント,バラの出現数の33パーセントを占めており,これらの花にとり共出現の持つ意味は大きい。 共出現は初期の詩集の段階ですでに現れ,それが晩年の版においても存在し続けているという点で,ロンサールがこの共出現を嫌ってはいなかったことが判る。このバラとユリの共出現は様々な形で現れており,その意味も多様である。本年度は多様な意味の中から,異教的儀式との関連,祝福,喪を中心にし,古典作家との関連も踏まえて考察を行った。 その結果,以下のような点を明らかにした。 1,バラとユリは他の花と共に空(天)から降り注ぐ出現様式をとるが,その場合は多くは祝福の意味を持つ。 2,バラとユリは他の花と共に,人間や女神,ニンフなどによって撒かれる場合がある。 3,バラとユリは他の花と共に,自然に生い茂り祝福する場合がある。 1および2については,参照した二つの全集(ローモニエ版およびプレイヤード版)でいくつかの典拠を候補として挙げている。しかし,本稿の研究の結果,スタティウスの祝婚歌の一節(Stace, Silvae,1,2, Epithalame de Stella et de Violentilla, v.17-23)もまた天から降り注ぐ花に言及しており,典拠の一つして考えられる。 一方,バラとユリがあたかも花というものを象徴するかのように好まれ,共出現を構成する点については,赤と白の鮮明な対比の美しさがオヴィディウスの一節で歌われており(Ovide, Amores,II,V,v.37),また,同じくオヴィディウスの一節(Ovide, Fastes, IV, v,337-443)では,プロセルピナが冥府の王プルートに拉致される前に野で花を摘む場面が描かれているが,彼女はバラとユリを好んだとして,これらの二種類の花にやはり優越性を与えている。
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