2008 Fiscal Year Annual Research Report
仏16世紀文学に見る「パン(肉)とワイン(血)」の系譜学(聖体拝領から人肉食へ)
Project/Area Number |
20520300
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
平野 隆文 Rikkyo University, 文学部, 教授 (00286220)
|
Keywords | ルネサンス / 聖体拝領 / キリスト教 / フランス / 旅行記 / 神学 / 暴力 / カンニバリスム |
Research Abstract |
本年度の最大の目的は、基礎的な一次資料の収集にあったため、計画通り夏期休暇期間中にパリ国立図書館(以下B.N.)に2週間近くの予定で出張し、クレスパン『殉教録』を始めとするプロテスタント側の犠牲録、およびジョンシアン・エルヴェ、フロリモン・ド・ラエモン、ジャック・セヴェールらカトリック側のパンフレ(誹誘中傷文書)などに関し、「聖体拝領」と「血の儀式」に関わる部分を集中的に調査・収集した。それらの資料の読解と分析を帰国後に行い、特に、カトリック側は、聖体拝領(パンとワイン)を拒絶するプロテスタント(特にカルヴァン派)が、ミサの根源的儀式を崩すことによって、キリスト教共同体そのものを脅威に晒す「悪魔的集団」と見なしていることが明確になった。逆に、プロテスタント側は、「殉教」という血の儀式を繰り返し称揚することが、イエスの贖罪の一回性、唯一性を切り崩す危険に陥ることに、また、カトリックの「聖人崇拝」と繋がることに、極度の警戒感を抱いていることを明らかにできた。さらに、ヴェルステガン『残酷劇場』などの調査から、プロテスタント側が、相手の腹部に暴力を加える傾向が、「聖体拝領」(パンとワイン)と「消化作用」を結び付ける象徴的な所作であることも、おおよそ判明した。さらに、詩人のアグリッパ・ドービニエ(カルヴァン派)の聖体拝領拒絶の姿勢が、『悲愴歌』から浮き彫りになることも分析できた。なお、パンとワインが、修辞学的にどう把握されたのか、つまりシニフィアンとシニフィエとの観点から見た場合、「聖体拝領」をどう理論づけうるかは、2010年度の研究課題として残った。
|