2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520303
|
Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
水林 章 Sophia University, 外国語学部, 教授 (80183630)
|
Keywords | 共和国 / 教育 / 学校 / 共同世界 / 個人 / 自律 / 市民 / 革命 |
Research Abstract |
平成20年度の研究計画にもとづいて,いくつかの作品の再読作業を推進した.取り上げた作品は計画書に記したとおり,ルソーの『告白』第三巻に読まれる「トリノの昼食」を中心とするエピソードおよび『孤独な散歩者の夢想』の「第九の散歩」に読まれる「贈答」をめぐるふたつのエピソードである.一見したところ,政治的な含意などまったくもたないかに見えるテクスト群であるが,後に「共和国」として意識されることになる,新たな共同的秩序・共同世界の創出への意志を読み取ることができることを確認できたと思う. しかしながら,本年度の思いがけない成果は,「共和国」という主題を追求する過程できわめて重要で回避しがたい主題として浮上してきた「学校」の主題との関係で,現代フランスの重要な作家ダニエル・ペナックの自伝的作品『学校の悲しみ』に出会ったことである。2007年度のルノドー賞に輝いたこの作品は生徒ペナックと教師ペナック(ペナックは25年間の長きにわたって,中学・高校でフランス語の教師をつとめた)の経験をとおして,学校とは何か,教師とはいかなる存在かという現代世界が直面する大きな課題に,文学に固有な手段によって,鮮明な光を当てている.わたしは,幸運にも著者と親交を結ぶことになり,また著者自身の要望もあり,『学校の悲しみ』を日本語に翻訳する作業をおこなうことになった.20年度の半分以上はこの翻訳作業についやされた.遅くとも,21年度後半には刊行されるはずである.
|