2009 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀日欧にみるベニョフスキー「世界周航」の衝撃
Project/Area Number |
20520314
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 研一 Tohoku University, 大学院・国際文化研究科, 教授 (80170744)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤田 緑 東北大学, 大学院・国際文化研究科, 教授 (10219024)
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Keywords | ベニョフスキー / コッツェブー / 世界周航 / カムチャッカ / エチオピア / マダガスカル / 非ヨーロッパ / 自由独立 |
Research Abstract |
佐藤は、まず、オーストリア国立図書館にて、18世紀末から19世紀に亙るドイツ文学における「ベニョフスキーもの」の文献渉猟を行った(2009年8月)。すなわち、一世を風靡したコッツェブー作『ベニョフスキー伯あるいはカムチャッカの反乱』(1795)をはじめとして、ヴルピウス作悲劇『ベニョフスキー伯』(1792)、フランス人デュヴァル作オペラ『カムチャッカの流刑者たち』(1804)のトライチュケによる翻案版、ミュールバッハ作小説『ベニョフスキー伯』(1865)等である。ついで、これらの作品の大半が、ベニョフスキー作独語訳版『世界旅行記』(1791)の主人公像を、いかに非文明国を舞台に据えた「自由独立の戦士」として、称揚しながら受容しているのか、見定めた。さらに、「自由独立の戦士」の主題の関連から、コッツェブーの両戯曲『ラ・ペルーズ』(1798)や『黒人奴隷』(1796)も比較検討して考察を加えた。 藤田は、まず、英国図書館にてマダガスカルに関する文献調査に従事した(2009年9月)。ついで、18世紀英国においては、アフリカの同義語とみなしうるエチオピアのイメージについて考察した。具体的には、ポルトガル人イエズス会士ロボによるエチオピア報告の仏語訳からの重訳版、サミュエル・ジョンソンの『アビシニア旅行記』(1735)、およびジョンソン作『アビシニアの王子 物語』(1759)を取り上げた。とくに後者は、舞台こそアフリカに設定されるが、幸福を追求する観念的著作であり、だからこそ英国にとどまらず、ヨーロッパでも広く受容された。あえて「幸福の谷」というユートピアから脱出し、異世界を放浪する王子が英国人を魅了していたまさにそのとき、ベニョフスキーはマダガスカル島に入植、その2年後の1786年に殺害される。『世界旅行記』の英語訳版刊行の1789年には、ベニョフスキーが英国で受け入れられる素地は整っていたといえるのである。
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Research Products
(4 results)