2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520318
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊藤 徳也 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 准教授 (10213068)
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Keywords | 現代中国 / 審美主義 / 周作人 / 生活の芸術 / モダニチィ / 啓蒙 / 頽廃 |
Research Abstract |
現代中国において独特の美学=倫理学を練り上げ、特徴的な足跡を残した周作人の審美主義の大枠は、古典主義であって、真善美の中庸を根底に置いたものだった。そのバランスを揺るがすモダニティの諸形式に対する彼の態度は複雑であった。例えば彼は、(1)文芸批評を書きながら、自らを文学、批評等の専門家とは見なさなかった。(2)科学の専門化の価値を知りながら、彼が科学について語るのは常に常識的科学思想のレベルだった。(3)法的制裁に頼らない人類共通の道徳を憧憬しながらも、道徳を規制する一定の外力の必要性を認めざるを得なかった。(4)啓蒙主義を奉じながら、虚無思想や頽廃思想に深く同情した。彼は、科学、芸術、道徳の三分野における専門化を肯定しながらも、一方では、虚無・頽廃思想に同情的な、あいまいで非専門的な凡人であろうとした。そして、凡人が専門知識とつながるために、常識(「人情物理」)が必要であることを主張した。彼は、凡人が主体となる審美=倫理的社会文化形式のことを、「生活の芸術」と呼んだ。生活と芸術をあいまいな「の」で結びつけたのは、生活と芸術が乖離して両者が互いに道具化し合わないための苦心だった。ハーバーマス「近代-未完のプロジェクト」(1980)によれば、近代以降、科学・芸術・道徳の三分野は高度な自律性(専門性)を帯びたが、それによって、専門的なシステムと生活世界との乖離が生まれた。その中で最も自覚的に自律性を追求したのが芸術分野だったという。とすると、「生活の芸術」が代表する、周作人のモダニティの諸形式に対する態度と試みは、ハーバーマスの指摘するモダニティの問題に対して、中国人として極めて先端的かつ総合的に答えようとしたものであったと言える。
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Research Products
(4 results)