2010 Fiscal Year Annual Research Report
世界知識と語彙意味:より豊かで体系的な語彙意味論の構築をめざして
Project/Area Number |
20520355
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
由本 陽子 大阪大学, 大学院・言語文化研究科, 教授 (90183988)
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Keywords | 語彙意味論 / 特質構造 / 概念構造 / 複合語形成 / 身体部分名詞 |
Research Abstract |
平成21度に、日本語の「名詞+動詞」型の複合語について、特に「する」との結合によって動詞として用いられ得るものの形成について新たな提案をし、その成果は平成22年度に国際ジャーナルに掲載された。平成22年度は、その論文で詳しく扱うことができなかった同じ型の複合語のうち、名詞が身体部分名詞であるものについての考察を行い、これについてもその形成メカニズムや形成の目的(動機づけ)においていくつかの異なるタイプが区別されることを指摘した。身体部分名詞は、分離不可能所有の関係をもつもっとも典型的な名詞類であるが、その所有者との関係付けは特質構造の構成役割においてなされるのがもっとも適切であると考える。身体部分名詞が動詞と結合する複合語形成においては、この特質構造の情報が、単に意味解釈においてのみならず、新たな動詞の項構造を決定するという非常に重要な役割を担っているため、このタイプの語形成メカニズムの形式化は本プロジェクトの目的達成に確実に貢献するものとなる。さらに身体部分名詞は比喩としてイディオムに用いられることが多いが、たとえば「口止め(する)」という複合語は、「*封筒の口止めする」が容認されないように、メトニミーではなくメタフォーとしての解釈が与えられる場合にのみ形成可能である。このように身体部分名詞を含むイディオムを基盤とした複合についても、名詞の比喩的解釈を特質構造を用いて表示することによって、その制約を明確に説明することが可能になる。 以上のように、名詞の特質構造が語形成論において必須の意味表示システムであることが、名詞と動詞の複合という現象を通じて明らかになったのである。
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Research Products
(2 results)