2009 Fiscal Year Annual Research Report
状態再帰と与格受動―ドイツ語ヴォイス体系の解明を目指して
Project/Area Number |
20520371
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大矢 俊明 University of Tsukuba, 大学院・人文社会科学研究科, 教授 (60213881)
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Keywords | 独語 / 状態再帰 / bekommen受動 |
Research Abstract |
本年度は,まずドイツ語における状態再帰(Zustandsreflexiv)について次のことを示した。1)状態再帰とは,Er ist erkaltet/informiert.のように「sein動詞+再帰動詞の過去分詞」から形成される構文であるが,まず,この構文に生起する過去分詞は形容詞化されており,したがって状態再帰は統語的に独立した文法カテゴリーを形成しているわけではない。2)次に,状態再帰の主語は,常にいわゆる意味上の目的語,すなわち内項に相当する。このことは,Kratzer(2000)やEmbick(2004)などで指摘されているように,[直接目的語+動詞]という「句」レベルに形容詞化が適用されていることを示していると考えられる。さらに,ドイツ語における受容者受動(Bekommen-Passiv)について次のことを示した。「受動」の解釈を持つ構文が,(広義)の「使役」の解釈を持つことは,Washio(1995)などで指摘されているように多くの言語に見られる現象であることから,ドイツ語における受容者受動も必ずしも「統語的な受動文」と分析する必要はない。すなわち,ドイツ語における受容者「受動」は,bekommenを本動詞とする能動文が「受動」の解釈を受ける構文にすぎない。この構文においては,Cook(2006)やHaider(2009)が示すとおり,bekommenと動詞の過去分詞というふたつの「述語」が合成されていると考えられる。
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