2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520399
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
大城 光正 Kyoto Sangyo University, 外国語学部, 教授 (40122379)
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Keywords | 象形文字ルウィ語 / ヒッタイト語 / カルケミシュ碑文 / 言語接触 / 再帰小辞 / r転化 / initial-a-final / 通時的考察 |
Research Abstract |
象形文字ルウィ語碑文の網羅的な資料集であるJ.D.HawkinsによるCorpus of Hieroglyphic Luwian Inscriptionsの中でも、特に同一地域内の碑文の成立年代別の比較考察が可能なカルケミシュ碑文の通時的考察を行った。語頭表記されるべき文字a-が語末表記される奇妙な表記法(initial-a-final)はカルケミシュのSuhi王家時代(BC.11/10C~870)までは頻繁に出現しているが、それより後代のAstiru王家時代以降(BC.840~717)は全く表出されず、逆にr転化表記(rhotacism)はSuhi王家時代までは表出されず、後代のAstiru王家以降に頻繁に出現している。それ故、両言語的特徴の共存は同言語の通時的な変遷においては存在しなかったという新しい知見を得た。Suhi王家とAstiru王家の過渡期の治世はSangara王の統治時代(BC.870~840)にあたり、同王が積極的に周辺諸国と同盟関係を結んで広範な外交政策を実施したことから、周辺地域の言語的な相互影響が強く、その後のカルケミシュ地域の象形文字ルウィ語に影響を与えたことが推知される。現在、ヒッタイト語の言語的変遷を古期・中期・後期の3時代に区分して歴史言語学的な考察が行われていると同様に、カルケミシュ地域の象形文字ルウィ語の言語的変遷をSangara王の治世の前後で2区分するための有力な言語的在証がこれらの言語的特徴と確証される。さらに、従来の考察で明証された象形文字ルウィ語の再帰小辞-si(正規の再帰小辞-ti)の大半の出現例が同地域の碑文で占められていることからも、同地域の特異な言語的改新が周辺地域との言語接触で生じた蓋然性が高い。同考察成果は筆者主宰の「第16回西アジア言語研究会」(平成21年12月6日京産大開催)において報告している。
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