2010 Fiscal Year Annual Research Report
書記史・文体史研究資料としての勧修寺法務寛信撰述書の調査研究
Project/Area Number |
20520423
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Research Institution | Shirayuri College |
Principal Investigator |
山本 真吾 白百合女子大学, 文学部, 教授 (70210531)
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Keywords | 書記史 / 文体史 / 勧修寺法務寛信 / 国語資料研究 / 国語学 |
Research Abstract |
今年度は、これまで調査した文献資料の整理を行い、この三カ年の中間的な報告を目指すことを目標に遂行した。 具体的には、近畿地方の、京都市の東寺、高山寺の真言寺院を軸として、勧修寺法務寛信の自筆本、撰述書、手沢本、伝領本など、彼にゆかりのある文献を広く探索し、現地に赴いて原本調査を行った。 日本語史の、特に書記史・文体史の資料として活用するためには、原本を実見することが不可欠であり、書誌的、文献学的情報も含めて調書をとった。今後の課題遂行の上で、資料は十全か、もし不足しているとすればどのあたりの文献資料かを知るためにも、この収集した文献資料のデータを整理した。その研究成果は、下記の研究発表(雑誌論文)のそれぞれであるが、就中、「翻刻・翻字の限界-日本語史研究の立場から-」(岩波書店『文学』11-5、2010)は、原本調査を行い、これを活字に置き換えて本文データを提供する上でどういった問題が生ずるかについての理論的考察を行ったものであり、「勧修寺法務寛信の言語生活について」(『言語変化の分析と理論』おうふう、2010)は、勧修寺法務寛信の多面的な書記生活の実態の全体像を俯瞰したものであり、当初予想した以上に、院政期における、勧修寺法務寛信の記録的活動の意義は甚大であることが確認された。具体的には、事相書、口記、表白の漢文的述作が中国古典文(正格漢文)に準拠するものから記録体(変体漢文)に及ぶさまざまなものがあることがわかり、仮名書き資料、訓点資料(主として東大寺点を使用)、和歌、字書に至るまで、実に幅広く、彼の言語活動の足跡を辿ることができ、「読む」「聞く」「話す」「書く」の四要素に亘り、勧修寺法務寛信がどういった言葉の生活を営んでいたかのおおよその実態を解明することができた。 一方、このような中間報告を行う過程で、今後の課題が具体的に展望できたのも今年度の成果である。第一に、漢文資料において未調査の文献が多数存することが確認され、原本調査の継続が必要であること、第二には、寛信の書記、文体史の活動を相対化するために比較材料を探索することが必要であることが分かった。
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Research Products
(4 results)