2008 Fiscal Year Annual Research Report
徳川儒学思想における明清交替--政治と学問の〈正統性〉評価の変遷
Project/Area Number |
20520562
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 Hokkaido University, 大学院・法学研究科, 准教授 (30311898)
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Keywords | 明清交替 / 徳川思想史 / 儒学 / 正統性 / 文献学 / 古文辞学 / 前後七子 / ハーヴァード燕京図書館 |
Research Abstract |
研究の初年度として、徳川幕府が清朝政府に政権の〈正統性〉を認めた享保年間の学問を中心に調査・研究を行った。(1)国立国会図書館の古典籍資料ばかりでなく、東アジアの一次資料・二次文献をハーヴァード燕京図書館で調査することと、(2)日本国内以外にも人的な研究ネットワークを拡げ、国内外の各種の研究会や国際学会をとおして中国・台湾・香港・韓国・ベトナム、また英語文化圏の研究者たちと意見交換を行い、研究方法と視角について新たな示唆を得ることに力点を置いた。具体的には(a)荻生徂徠の古文辞学提唱の契機となった、明中期の王世貞・李攀龍ら前後七子について、中国・韓国における研究状況をおさえた。本研究にとって有意義な比較となったのは、16世紀後半における朝鮮での前後七子の文学論受容とそこからの離反の問題であった。また(b)徂徠や宣長を含め、明・清期に李氏朝鮮・徳川日本などの東アジアの思想が哲学から文献学研究へと大きく質的な転回を遂げることに注視する欧米圏研究者たちの比較研究との交流も有益であった。ただしこれらは、古代文化追究と一体になって行われた当時の歴史文献の研究がそれぞれの政治社会のアイデンティティ確立に寄与したことが説くが、中国の王朝交替という東アジアの政治秩序転回との関係は問われていない。さらに(c)中国・台湾の研究者たちとは、中国古典の注釈書をめぐる文献学的な国際比較研究を「儀礼」との関係から議論した。徳川儒学思想史を、同時代の東アジア思潮と現在の国際的な研究環境のもとで捉え直す試みとして、今年度はアメリカにおけるアジア歴史学研究の現状を把握するために、ハーヴァード燕京研究所や全米アジア学会(諸地区の地域学会を含む)での研究報告、アメリカ歴史学会への参加も行った。今後、東アジアでの研究交流の機会を増やして議論を重ね、最終年度の研究成果発表に備えるつもりである。
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