2010 Fiscal Year Annual Research Report
徳川儒学思想における明清交替――政治と学問の〈正統性〉評価の変遷
Project/Area Number |
20520562
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
眞壁 仁 北海道大学, 大学院・法学研究科, 准教授 (30311898)
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Keywords | 明清交替 / 徳川思想史 / 儒学 / 正統性 |
Research Abstract |
研究の最終年度として、享保年間から幕末期までの明清儒学受容をまとめる作業を行った。過年度までの研究を見直し、当初予定していた徳川政権初期の明儒学受容ではなく、祖徠学以降の徳川中期・後期思想における明清交替の影響について、対象を拡げて分析を深めることに力を注いだ。従来の本研究に新たに付け加えて検討したのは、以下の諸点である。(1)学問と文芸の接触:清朝学術の受容基盤となったのが、経典解釈などの儒学の哲学的側面のみならず、詩論・文学論であったことを踏まえて、順治・康煕年刊の書籍蒐集と文芸結社の活動を関連づけた。(2)学術コミュニティの社会的環境とその偏差:とくに乾隆期学術が本格的に受容された化政期において、舶載漢籍所蔵の諸文庫への接近度合いが清朝考拠学の受容とその評価にどのように影響しているのかを分析した。(3)儒学者による同時代の清朝中国評価:清朝の資料に基づいて行われるようになる清朝中国の評価が、日本での清学術理解の深化に伴いどのように変化するかを、幕末に至までの清朝経世論の選択的摂取に即して明らかにした。清朝の各時代の学術が、時代の局面ごとにどのような形で受容され、いかなる反応を生んだのかについて、江戸を中心とする限られた儒学者を通してだが、およその見取り図を描くことができたと考える。徳川儒学の独自な問題意識と展開のもと、幕府儒者の周辺でさえ清朝学術の批判的摂取が行われていたことが判明し、中国哲学史を基準として徳川儒学思想史を整理する従来の捉え方には再考が求められる。これらの研究内容については、日本政治学会や各種の研究会で報告を行い、分野を越えた研究者たちから批評を受けた。
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