2010 Fiscal Year Annual Research Report
近世「地域社会」における諸身分集団の複層構造に関する基盤的研究
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20520567
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
吉田 ゆり子 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 教授 (50196888)
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Keywords | 日本史 / 地域社会 / 身分 / 差別 / 社会集団 / 芸能者 / 夙 / 非人 |
Research Abstract |
本研究課題の最終年度として、次の3点に関する研究に重点を置いて研究した。(1)中世から近世への移行の検証。中世の「宿」(夙)が、太閤検地を画期とする村切りによって近世の「村」に組み込まれてゆく過程を検証した。具体的には、「宿」と寺社との関係を検証するために、上川路村の簓と開善寺、市田村の猿牽・簓と瑠璃寺との関係、立石村と立石寺に焦点をあて、史料調査・分析と考察をおこなった。(2)「舟人」の実体を明らかにするために、下市田村(中村まさ子家文書)、田村村(片桐邦助家文書)、林村(大原俊一家文書)を調査し、天竜川の渡し舟の船頭仲間に関する考察をおこなった。(3)本研究課題を深め、さらに発展的に考察することのできる諸身分集団として、木地師(林村大原家文書、川野村地正持文書、和合村宮下金善家文書)と人形遣いに関する史料群(唐沢一平家文書など)と論点を見いだし、史料調査と口頭報告をおこなった。とくに、人形遣いについては、「宿」(散所)に本拠を置く、淡路出身の芸能者の遍歴と定住の歴史を明らかにすることができることから、8月に日仏研究者を飯田市に集めた国際シンポジウムにおいて口頭報告を行い、その成果は『年報都市史研究』別冊、山川出版社、2011年5月刊行予定、に掲載されることになった。また、本研究成果の一つとしてまとめた「簓-周縁化された人びと-」はフランスの学術雑誌『アナール』に掲載されることが決定したとの連絡を2011年3月に受けた。本研究を通して、旧来の百姓身分を中心とした共同体論では、地域社会に生きた人びとの生活や意識の全体を解明するはできず、従来は部落問題として別に扱われてきた「えた・非人」や「雑種賎民」(芸能者・舟人・木地師・簓など多様な人びと)の存在を組み込み、総体と上て捉えることがたいへん重要であることが再認識された。
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