2010 Fiscal Year Annual Research Report
戦後における被差別部落表象の他のマイノリティとの比較史的研究
Project/Area Number |
20520574
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
黒川 みどり 静岡大学, 教育学部, 教授 (60283321)
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Keywords | 部落問題 / 人種 / 表象 / 映画 / 自画像 / 他者像 |
Research Abstract |
当該年度は、戦後初期と1960年代に上映された映画「破戒」に関して、原作が書かれた背景、木下恵介と市川崑の2人の映画監督によってそれぞれの作品が作られた背景を詳細に調べ上げることと、それらを踏まえながら、当該時期の部落解放同盟の機関紙や雑誌などを悉皆調査しながら、それの受け止められ方を分析していく作業を行った。とりわけ「破戒」については、戦後民主主義に期待を託した木下作品にみられる楽観主義と、高度経済成長期のまっただ中にあってなお部落問題が深刻に存在するなかでの、市川作品における部落問題の描かれ方の対比を行った。後者は、繰り返し「身の素性」の克服の困難さを示す表現が登場する。 また正980年代を代表する作品「人間の街」の舞台となった大阪府松原市を訪問し、出演者、関係者のインタビューを行った。それにより、自画像をつくることすら容易ではなかった戦後初期の段階から、自画像と他者像の衝突を経て、「部落民の誇り」に集約されるような自画像を打ち出すにいたった経過、ならびにその問題点を分析した。たしかに当事者が運動に立ち上がり、それを担っていく上に「誇り」は重要な役割を果たす。しかしながら、「破戒」の中で執拗に頭をもたげる「身の素性」は「誇り」を立ち上げるだけでは必ずしも克服しえないという問題をはらんでおり、現在の解放運動や啓発などに突きつけられている問題であることを提起した。 そうした作業を行いつつ、後半はこれまでの研究成果をまとめる執筆作業に時間を充て、『描かれた被差別部落』というタイトルで岩波書店から単著を刊行することができた。2011年4月27日に発刊が予定されている。
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