2009 Fiscal Year Annual Research Report
イギリス商務院の組織的・政策的特質と失業保険制度の起源
Project/Area Number |
20520633
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
松永 友有 Yokohama National University, 国際社会科学研究科, 准教授 (50334082)
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Keywords | 西洋史 / 経済史 |
Research Abstract |
学会誌『社会経済史学』に単著論文「イギリス商務院と最低賃金制度の形成」を投稿した(2010年3月36日付で受理通知)。本稿においては、イギリスの商務院の下で1909年に産業委員会法が制定された経緯を、公文書館史料に基づいて実証的に究明した。この産業委員会法により、イギリスは近代史上、いわゆる大国の中では初めて最低賃金制度を導入した国となったのだが、その画期性にもかかわらず、産業委員会法の起源についてはいまだ乏しい研究しか存在しないのが現状である。 本稿は、輸出貿易の拡大を史上任務とするという商務院の組織的特質に着目した上で、失業保険制度の導入にはきわめて熱心であった商務官僚が最低賃金制度には終始消極的であったことを実証した。それにもかかわらず、世論による圧力を受けて自由党政権が最低賃金制度導入を決定した際には、本命視されていた内務省でなく、商務院が同制度の担当官庁となった。商務官僚がイギリスの産業競争力の維持を何よりも重視して産業委員会法を運用した帰結として、同法の効果は最小化されることとなったのである。 このように、本稿においては、商務院の通商政策と社会政策を関連づけて論じるという、従来にない本研究独自の視点を活用することによって、失業保険制度と最低賃金制度に対する商務官僚の対照的な姿勢の背後にイギリス産業の対外的競争力の維持を図る、という一貫した意図を見出すことに成功したのである。
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