2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520635
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
保坂 高殿 千葉大学, 文学部, 教授 (30251193)
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Keywords | 西洋古代史 / キリスト教迫害 / 国家と教会 |
Research Abstract |
2010年度は本研究の最終年度であるため、過去2年間の成果を補強しながらその基礎の上に、研究課題である「国家と教会」の関係についての総括を行った。具体的には、国家と教会との関係を、教会が成立した1世紀からテオドシウス朝による国教化が実現した4世紀末までの期間に渡って概観し、4世紀初頭の政策転換を宗教的動機ではなく治安的および政治的動機に着目することで、教会の発展成長の、そして帝国からの指導的社会集団としての認知の原因を、帝国側の論理と教会組織の特性、双方の側から明らかにすることができた。 1.帝国の教会保護政策への転換原因の解明の際、一般的に依拠資料として利用されている『コンスタンティヌスの生涯』は偽書の疑いが強いため、前年度およびお前年度に引き続き、ただし今回は貨幣資料、図像資料を駆使して全く別の角度から、偽書性の論証を試みた。『生涯』の4世紀末または5世紀成立説に妥当性があるなら、当文書は4世紀末の権力中枢にいた信徒集団の政治意識の解明に使用することのできる有益な資料でこそあれ、大帝の宗教意識の解明には使用不可能であることが理解される。新都建設の目的もキリスト教的首都の建設ではなく、軍事的要塞の必要性の他、大帝以降の時代における内乱防止を未然に防止するための、より独立性と安定性の高い分治体制の基礎づくりという政治的なものであったことを明かにした。 2.政策転換の原因を以上のように皇帝の政治的配慮という側面から見ることにより、3世紀以来顕著になりつつあった帝国分解の危機に対して帝国が教会の広域組織性という特性を利用して対処しようと試みたことが整合的に理解できる。組織性とはキリスト教徒の新しい民としての類意識に起因する組織的統一志向性を指し、これが一方では、帝国をして教会弾圧へと駆り立て(所謂大迫害)、他方では、大帝をして逆にこれを国家再建のために有効利用させたことを明かにした。
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