2010 Fiscal Year Annual Research Report
古代ギリシアにおける紛争解決と公共圏の比較文化史的研究
Project/Area Number |
20520636
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋場 弦 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 教授 (10212135)
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Keywords | 紛争解決 / 公共圏 / ギリシア / 民主 / アテナイ |
Research Abstract |
(1)本年度は、前年度に引き続き、古代ギリシア人の紛争解決方法にどのようなものがあったかについて探究すべく、史料・研究文献の収集と解読・調査に従事した。調査の焦点となったのは、古代ギリシア人の紛争解決方法において、村落共同体もしくは街区のような、地縁共同体における人的結合関係が、国家権力の介入なしに市民たちが自律的に紛争解決にあたるに際して、どのような機能を果たしていたか、という論点であった。 (2)その証拠の全体的把握に努めるために、法廷弁論(とくに前四世紀)における具体的な紛争事例の調査につとめた。その結果、役人や裁判所などの公的機関が事案に介入する以前に、地縁共同体の住人が紛争当事者間の論議に積極的に関与し、場合によってはそのどちらかに助力し、あるいは後に法廷での証言を提供するなどの役割を果たしていたことがわかった。 (3)法廷弁論のみならず、伝アリストテレス『アテナイ人の国制』の精密なテクスト研究をも行うことによって、アテナイ民主政における司法と紛争解決の具体的な様相が、研究史とともに明らかになった。 (4)以上の作業を行う過程において、一次史料や研究文献を収集するために、9月の後半に英国に出張し、ロンドン大学古典学研究所、およびケンブリッジ大学図書館にて調査研究に当たった。 (5)まとめとして、古代ギリシア社会にあっては、近代世界のような警察組織や司法組織が不在であったかわりに、ポリス国家の下部にある中間諸団体における人的結合関係が、未然に紛争を防止したり、あるいは紛争が起こった場合にその解決にむけて一定の回路を提供しており、それがポリス社会の安定化につながっていったという仮説を導くことができた。
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