2011 Fiscal Year Annual Research Report
西洋中世の環アルプス圏における移動とコミュニケーション
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20520637
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
千葉 敏之 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 准教授 (20345242)
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Keywords | 西洋史 / 中世史 / 交通 / 異文化交流 / 山岳 / 地図学 / 移動 / 峠 |
Research Abstract |
本研究計画の最終年度にあたる平成23年度には、過去3年間の研究成果を踏まえ、またその不足点を補うために、以下の研究活動を行なった。1.10・11世紀を中心とした写本の移動・貸借についての調査(書簡史料・蔵書目録の分析)、2.環アルプス圏に集中する、高度な写本作成技術をもつ修道院の役割についての考究、3.環アルプス圏における修道院の役割の、写本の流通という観点からの総括、4.オットー朝およびザーリア朝歴代皇帝のアルプス越えルートの確定作業、5.皇帝の環アルプス圏での証書発給行為の意味に関する分析、である。これらの研究課題を遂行するうえで必要な調査を実施するために、9月には海外出張を行なった。本研究計画を通じて得られた成果は、これまでに論文・著書の形で公表してきたが、今年度の研究を通じて以下の成果を得た。第一に、アルプス以北のゲルマニアおよび環アルプス圏を含め、北イタリア、ローマを統治権下に置いていたオットー朝神聖ローマ皇帝、とくにオットー3世は、教会改革者の移動によって確立されていた改革派ネットワークと並行して、当時イタリア半島全域に広がりつつあった隠者(隠修士)を束ね、彼らを自身の帝国理念の実現に積極的に活用したこと。第二に、紀元千年における教皇シルウェステル2世(ジェルベール・ドリャク)もまた、教会知識人として自己形成・キャリア形成の過程で、改革派のネットワークを活用しつつ、これを広げ、紀元千年の学問知の転回や新たな知の伝播に貢献したこと、である。さらに、本研究を通じて、改革派知識人の移動経路、移動者・移動物資の性格等の観点と、移動の経費の問題と、同時期にイタリア半島を中心に形成されつつあったギリシア典礼と隠者のネットワークとの関連をさらに詳細に分析すべきことが、今後の研究課題として確認できた。
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