2009 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520640
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
皆川 卓 University of Yamanashi, 教育人間科学部, 准教授 (90456492)
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Keywords | 仲裁協定 / ヨーロッパ公法 / 政治的人文学 / レーン制度 / 宗教的紐帯 |
Research Abstract |
21年度目標とした中央ヨーロッパ諸国の紛争に関する史料収集と仲裁裁判のデータベース化は、国家の自立性の高い北西エリア(オランダとリエージュの紛争)を除いてほぼ終了し、国家同士の間に何らかの主従関係や盟約のある北東エリア(バイエルン公国とボヘミア王国の紛争)、中部エリア(スイスとミラノ公国の紛争)、南部エリア(マントヴァ公国とその分国およびミラノ公国の紛争)の三つの例について、それぞれ詳細な事例が得られた。その結果、21年度暫定的に設定した国際的仲裁の二類型、すなわち「国際的封建制」に基づく仲裁裁判タイプと、「現地社団間のコミュニケーション」に基づく仲裁裁判タイプが妥当することが明らかになった。前者の例は南部エリア、すなわちイタリア諸国の紛争における仲裁裁判で、従来主権国家間の仲裁裁判と見られてきたイタリア諸国の仲裁裁判は、少なくとも17世紀までは共通の国制的・宗派的条件の下で、各政府がハプスブルク家を中心とする封建制ネットワークを頼って要請しており、そのシステムの下で、中世以来有力であった注釈学派的法曹による封建法裁判として行われていた。この結果については、別科研費による報告会で2度にわたり報告している。これに対して後者には、北東エリアや中部エリアの仲裁裁判が妥当することが分かった。既に20年度の時点である程度把握していた北東エリアの他に、21年度行ったチューリヒ州立文書館の調査で、新たに中部エリアの仲裁が妥当することを発見した(1557年の仲裁条約、並びにスイス諸邦とミラノ公国の仲裁裁判の記録)。主従関係のない、宗派も異なる国家同士の間で行われるこの例は、法思想や宗派とは無関係に、盟約的なスイス国制そのものが、仲裁裁判による紛争解決に適合的であることを示しており、仲裁裁判が中部エリアの国家間関係の構造的特徴を反映しているといえる。
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