2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520645
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
渡辺 和行 Nara Women's University, 文学部, 教授 (10167108)
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Keywords | 西欧近現代史 / 実証主義史学 |
Research Abstract |
平成20年度は、19世紀末の実証主義史学に対する2つの批判を再検討した。 1)社会学からの批判……社会学の制度化の議論は、デュルケーム社会学の成立との関連で研究が豊富な分野である。先行研究の議論を踏まえつつ、『社会学年報』や『形而上学・道徳雑誌』、『国際社会学評論』や『国際教育評論』、『史学雑誌』や『近現代史評論』、『歴史総合評論』などに発表されたデュルケーミアンの歴史学批判を検討し、デュルケーム、シミアン、フォーコンネ、パロディなどの議論を中心に、歴史学が説明科学をめざさない点が批判されたことを確認した。また、最大の影響を及ぼしたフランソワ・シミアンの歴史学批判(政治・個人・年代記という3つのイドラ批判)についても、これまでわが国では十分に検討されていないので、シミアンの言う「社会的事実」「原因」「史料」などの概念を再確認し、歴史学と社会学との関係を再検討した。 2)哲学からの批判……『歴史総合評論』を創刊したアンリ・ベールの歴史学批判が有名であるが、1880年代以降、哲学畑の研究者から歴史の認識論的問題をめぐって議論がなされていた。ムジュオル、ブトルー、ラコンブ、クセノポル、セニョボスらの議論を整理しつつ、世紀転換期の歴史論争を長期的なパースペクティヴの下に位置づけた。彼らの議論に棹さしたのがベールであり、リュシアン・フェーヴルやマルク・ブロックに影響を及ぼすことになる。ベールは、リセ時代のフェーヴルの師であり、フェーヴルとブロックは『歴史総合評論』の協力者でもあった。 こうした2つの批判を解明することで、歴史学の脱皮が進む状況が把握でき、実証主義史学から社会史への道程が明らかになった。
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