2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520645
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
渡辺 和行 奈良女子大学, 文学部, 教授 (10167108)
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Keywords | 歴史学の制度化 / 歴史学の科学化 / 方法論争 / 実証主義史学 / アナール学派 |
Research Abstract |
最終年度の平成22年度は過去2年間の研究の総括年であった。まず、19世紀末の実証主義史学に対する2つの批判、第1に社会学からの批判(デュルケームとシミアンの批判)を再確認し、第2に哲学からの批判をアンリ・ベールの歴史学批判を中心としつつも、その他の哲学者による認識論的問題をめぐる議論を分析した。これらの2つの批判を解明することで、世紀転換期の歴史論争を長期的な展望の下に位置づけることができた。 その上で、20世紀初頭フランスの歴史論争について次の5点を解明した。第1に、社会学者の批判に晒された実証主義史家のなかに反省の気運が生まれたこと、第2に、ドイツで展開されたランプレヒト論争に対するフランス史家の反応を解明することで、20世紀の歴史学の発達における仏独の分岐点が明らかとなった。第3に、シミアンのセニョボス批判への反響を探ることで、防戦に立たされた歴史家の対応や社会学者の主張に親近感を抱く歴史家の存在など、歴史学会に生じた波紋の広がりが解明できた。第4に、セニョボスの歴史論や社会科学観およびその問題点などが分かった。第5に、20世紀初頭のフランスで、歴史家と社会学者の論争の舞台が整った結果、1903年と1906~08年に連続講演会やシンポジウムが開かれ、そこで繰り広げられた歴史学と社会学との方法論争を整理し、19世紀後半から20世紀初頭のフランス史学史に位置づけることを通して、アナールの揺りかごの1つが解明できた。以上の内容を、研究成果報告書として刊行した。
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