2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520654
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
山田 史郎 同志社大学, 文学部, 教授 (30174717)
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Keywords | 移民 / 大西洋 / 感染症・伝染病 / ナショナリズム |
Research Abstract |
当初はアメリカ合衆国の諸大学・資料館において、移民と疫病、とりわけアイルランド人・イタリア人等のヨーロッパ系移民とチフス・結核・黄熱病等の感染症との関係に関して検疫・入国管理等の資料を閲覧する予定であったが、予定した訪問先の諸事情によりそれが不可能となったので、国内における資料の収集による補填に努めた。その結果、同志社大学アメリカ研究所等に所蔵される移民の自伝的叙述を詳細に分析し、移住の体験における身体の管理と渡米後の各種医療従事者との関係について、まとまった知見を得ることができた。とりわけ、前年度より集中的に考察しているアイルランド人移民の場合に、母国における飢饉のもとでの極度の栄養失調と、いわゆる「棺桶船」と呼ばれた移民船におけるチフス等感染症の罹患、及び渡来後の受け入れ国による強制的な検疫・隔離等の体験が、民族的コミュニティの結束維持や、アングロサクソン中心社会に対する憎悪や怨念となって、独特のアイデンティティを構築したように思えることなどが、明らかとなった。かかる知見は、アイルランド本国における飢饉・疫病体験と反英運動の関係や、イギリス・カナダ等におけるアイルランド人移民の体験と比較参照されることによってさらに、環大西洋の人の移動と、医療・身体管理、及びナショナリズムとの関係を明らかにする歴史的意義を持ちうる。ただし、資料の制約により、本来の研究計画で企図したカリブ海等をも射程に入れた文字通りの環大西洋的理解をうるまでの移民研究の広がりを追求することは不十分に終わった。今後の課題としなければならないが、本研究で部分的な解明をなしえた身体管理とナショナリズムの視点は環大西洋世界における人の移動と伝染病の包括的な理解に有益となろう。
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