2010 Fiscal Year Annual Research Report
謝罪のポリティクス--大英帝国における奴隷制度廃止以後を例として
Project/Area Number |
20520656
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
井野瀬 久美惠 甲南大学, 文学部, 教授 (70203271)
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Keywords | 大英帝国 / 奴隷貿易廃止 / アフリカ / 歴史と記憶 / 歴史認識 / 謝罪と和解 |
Research Abstract |
平成22年度は、「奴隷貿易とその廃止の記憶」を常設化したロンドン、ブリストル、リヴァプールの博物館のその後を追跡調査しながら、この歴史的な記憶が今どのように再記憶されつつあるかをさらに具体的に分析し、それと、謝罪を拒否したブレア首相(2007年当時)によって逆に意識された「歴史における謝罪」との関係へと考察を深めた。とりわけ本年度は、アフリカ、特にそのイスラム地域で今なお続いている人身売買を"Modern Slavery"として強調し、その廃止を強くアピールするイギリスの諸都市やNPO諸団体の動きに注目した。イギリスは、「人権」や「民主主義」などをキーワードに、今なお「奴隷貿易/制度の廃止のリーダー」であることを内外に示すことで、現代世界でグローバルな言説と化した「テロとの戦い」に独自の居場所を確保すると同時に、「謝罪」を回避した事情とその仕組みの一端を明らかにした。 さらにもうひとつ、本年度は、昨年度進められなかった「歴史的記憶の重なり」へと思考を進めることを試みた。すなわち、現代国際情勢のなかで再び強調された「奴隷制度廃止の旗手」というナショナル・アイデンティティに、カウントダウンに入り史料発掘が進む「第一次世界大戦勃発100周年の記憶」顕彰の動きが微妙に重なっていることをどう考えるか--それは、1830年代に帝国内における奴隷制度廃止を実現して以後、南部アフリカの植民地化の進展と重なって進められた帝国再編、そのプロセスで起こった第一次世界大戦について、その「総力戦」の中身を再検討することでもある。「帝国総力戦」という言説には、奴隷制度廃止自体の対象が南北アメリカに移った19世紀後半から20世紀初頭にかけて、「奴隷貿易/制度を廃止する大英帝国」という言説がたえず絡んでいた。その相関関係を、今後さらに具体的に洗い出しながら、大英帝国の光と影を考えるなかで、第一次世界大戦の記憶をも再検討できればと考えている。
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Research Products
(6 results)