2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代山村開発史の民俗学的研究―熊本県五木村を事例にして―
Project/Area Number |
20520710
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
湯川 洋司 山口大学, 人文学部, 教授 (10166853)
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Keywords | 山村 / 開発史 / 民俗学 / 五木村 / 水力発電所 / チッソ(株) |
Research Abstract |
1.五木村現地調査と資料収集・確認調査(計4回実施) (1)五木村において、(1)戦後以降の建設業の展開、(2)山産物流通と商店、(3)水力発電所の営業、(4)在来農産物生産の推移と実態、等について聞書きによる資料を得、(2)五木村の役場・教育委員会・商工会、県立人吉高校五木分校、熊本県立図書館で資料を収集・確認し、(3)チッソ(株)水俣製造所で同社所蔵文書の内容について確認調査を行った。 2.収集資料の整理・分析等 (1)五木村所在のチッソ(株)発電所に関する資料を一覧に整理し、一部を翻刻した。(2)収集した資料を整理して「五木村開発史年表」(第1版)を作成した。 3.論文の作成 研究成果の一部を「高度経済成長と山村生活の変化」として投稿した(『国立歴史民俗博物館研究報告』に採用決定)。 4.成果報告書の作成 五木村の開発史を、(1)山の開発、(2)川の開発、(3)公共事業に区分して史資料を収集・整理し、(1)五木銅山の操業(明治時代後半)、(2)水力発電所の建設・操業(大正末期・昭和初期以降)、(3)製炭業(明治時代~戦後)、(4)ダム建設計画(戦後~現代)の4つの局面に絞って分析・考察を行い、報告文と資料編(年表・収集資料一覧・史資料翻刻・写真等)から成る報告書を作成した。従来の開発が山村の自前の資源を活用し山村自身の生活向上や福祉の増進に寄与するところが大きかったのに対し、下頭地ダムと川辺川ダムという戦後2度にわたり計画された建設計画は、山村社会を水に沈めて消滅させる点で山村自身には希望の見えない性格の開発手法・行為であることが明白になった。また川辺川ダム建設計画が長期に及ぶ中で村経済が公共事業を主体にした建設業に偏した産業構造に依存する傾向を助長し次第に自律(立)性を失ったことも、それ以前の開発行為とは異なる特徴であり、今後は山村の自律(立)性を確保できる開発行為が求められることを提言した。
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