2010 Fiscal Year Annual Research Report
越境する文化と移民ー海外における中国伝統芸能・音楽の伝播と変容に関する比較研究
Project/Area Number |
20520711
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
王 維 香川大学, 経済学部, 教授 (10322546)
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Keywords | ネットワーク / 地域社会 / イギリス華人コミュニティ / アイデンティティ / 文化的紐帯 / 中国台頭 / 同郷組織の役割 / 移民社会 |
Research Abstract |
報告者はこれまでの研究を踏まえた上で、平成22年度において、比較的な視点から新たにイギリスにおいて華人のコミュニティについての研究調査を行った。それによって日本の華僑社会との違いが明らかになった。例えば従来の考えでは華僑の結社団体、新聞、学校は移民社会の発展を維持する3つの重要な柱だと解釈されてきた。しかし、同じ中国系移民の2世、3世でも、日本の華僑場合では社会を維持するネットワークなどはかなり多様化しており、特に地域と連携する商業組織及び地域化した中国文化の祭祀活動は、彼らのエスニシティとアイデンティティを維持しながら、上位社会への社会化に重要な役割を果たしている。彼らのネットワークは中国という符号を文化資本とした、地域社会と連携する文化創出活動を通して作り上げられたものである。彼らが中国人でも日本人でもなく、長崎華僑、横浜華僑、神戸華僑というアイデンティティを強調するように、地域は華僑文化的、社会的、経済的ネットワークの繋がりが根を下ろす重要な土壌であることを示唆する。イギリスの場合では従来の移民の出身地は殆んど香港であったが、移民の歴史や職業の事柄により従来地縁・血縁に基づく組織は不在であった。1980年代よりいろいろな同郷組織が作られているが、その役割は従来の同郷組織の親睦・相互扶助というより、むしろ中国本土との関係を作り維持するための文化的紐帯として果たしている。中華街という空間と祭りの作りには、イギリスと中国政府の働きかけと支援が大きな役割を果たし、特に中国の台頭によって2003年より拡大された春節祭は、移民と地域人との交流ための祝祭であり、政府間の文化交流の慣例行事となっている。移民のアイデンティティも従来の香港人から中国人或いはチャイニーズ・ブリッティシュなどのように変化し、中国の国際的な地位は移民社会に与える影響が大きいことが伺える。
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