2008 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20520725
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Research Institution | History Museum of Hokkaido |
Principal Investigator |
手塚 薫 History Museum of Hokkaido, 学芸部, 研究員 (40222145)
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Keywords | 千島列島 / アイヌ / 移住 / 生物地理学 |
Research Abstract |
2000年以降の国際調査によって、続縄文文化期に、縄文文化では限定的だった亜寒帯地域への本格的な進出が始まり、その後一時的なヒアタスを経てオホーツク文化の拡散につながることが明確になった。また、千島列島全体に及ぶ居住の断絶期が確認された。これはKBPによって集積された年代測定資料によっても引き続き支持されている。千島列島北部から中央部でこのような事態を引き起こした原因としては、最近、地質・地震学者によってにわかに注目を浴びている500年周期の大津波や13世紀から始まり17世紀にピークを迎える小氷期との関連を想定できる。とりわけ千島列島北部〜中央部において確認された13世紀末から17世紀初頭までの居住断絶期は、北半球で確認されている小氷期の時期と一致する。大陸と違い、もともと安定した食料基盤の保持が難しい小島での生存にとって、自然環境の悪化による資源の減少や枯渇は大きな影響を及ぼすと予測される。そのために千島列島の各島で採取した珪藻遺骸分析から津波や自然災害が存在した証拠を確認できないか検討した。その結果、いくつかの島の地層から津波堆積物の存在を確認できた。 このような自然環境における変化は周辺国家との交易活動のように、ポリティカルエコノミーのコンテキストに置かれるようになった社会にとっても交換財の確保が安定せず、一時的な生業の集約化にとどまらざるをえないなどの結果をもたらしたであろう。いずれにしろ、千島列島の多くの島々で続縄文文化期とオホーツク文化期に関わる多くの遺跡や遺物が検出されたのに対し、アイヌ文化期に関わる遺跡・遺物の数は極めて少ない。これをどう評価するかが重要な論点となるので、今後も自然環境の変動と文化との関係について継続調査を行なう必要性がある。
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