2008 Fiscal Year Annual Research Report
『瑜伽師地論』とアビダルマ仏教の思想的関連について
Project/Area Number |
20529002
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Research Category |
Grant-in-Aid for Special Purposes
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 晃一 The University of Tokyo, 大学院・人文社会系研究科, 特任研究員 (70345239)
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Keywords | 瑜伽師地論 / 倶舎論 / アビダルマ / 菩薩地 / 声聞地 / 摂事分 / Manusyakasutra |
Research Abstract |
瑜伽行派とアビダルマの思想的関連を明らかにするため, アビダルマの代表的な論書『阿毘達摩倶舎論』と, 瑜伽行派の根本典籍『瑜伽師地論』の内容を比較分析することを目的とする. 平成20年度は, アビダルマの人無我説と深く関わっているManusyakasutraに着目し, 『瑜伽論』の古層に属する『菩薩地』『声聞地』「摂事分」に見られるアビダルマからの思想的影響の一端を考察した. Manusyakasutraは『雑阿含』中の経典であり, 『倶舎論』「破我品」では人無我説の教証として引用される. この経典の描写と非常によく似た表現が『菩薩地』「菩提分法品」にも見られ, 『菩薩地』の注釈者サーガラメーガはそれがManusyakasutraに基づくことを指摘している. また『声聞地』にもこの経典の一節と一致する表現が見られるほか, 「摂事分」でも, この経典への言及が見られる. したがって, 『瑜伽論』の古層において, アビダルマと重要な伝承を共有していたことが分かる. この経典は, 衆生」などの表現は諸蘊に対して付与された単なる名称に過ぎないと説いており, 『倶舎論』に説かれるアビダルマの人無我説を端的に表してい. 一方『菩薩地』の法無我説は, アビダルマの人無我説と一見して類似しており, その発想を法概念にまで敷衍したものと言える. Manusyakasutraが『瑜伽論』の古層を形成する部分で引用されているという事実は, 早い段階から瑜伽行派がアビダルマの思想的影響を受けていたことを裏付けるものと考えられる. なお, 実施計画ではyogacara, sautrantika, purvacaryaの呼称で言及される学説と前後の文脈の抽出・分析を行うとなっているが, 『菩薩地』におけるManusyakasutraの引用は上記の計画に沿った考察の過程で新たに発見されたものであり, また, 瑜伽行派とアビダルマの関係を考察するという目的にも適ったものである.
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Remarks |
基盤C
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