2010 Fiscal Year Annual Research Report
『瑜伽師地論』とアビダルマ仏教の思想的関連について
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20529002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 晃一 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特任研究員 (70345239)
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Keywords | 仏教 / 瑜伽行派 / アビダルマ |
Research Abstract |
本研究は大乗仏教の一派である瑜伽行派の思想と,伝統的な部派仏教の思想であるアビダルマの関連について考察することを目的としている.H22年度は、『瑜伽師地論』「摂事分」と『倶舎論』に共通して引用される経典の解釈を比較・分析することを通じて、瑜伽行派の思想形成の背景とヴァスバンドゥの思想動向について考察を試みた。資料分析の過程で、パーリの初期経典およびそれに関連する注釈や論書も視野に入れて考察した結果、以下の点が明らかになった。 1.『倶舎論』における仏教特有の術語解釈は、アビダルマの伝統説を継承する一方で、異説に言及するが、その異説が瑜伽行派の説と一致する例がしばしば見られる。ただし、古典的なサンスクリット語辞典である『アマラコーシャ』などと比較すると、瑜伽行派の説はこれと近い場合がしばしば見られる。これは瑜伽行派説とインド古典辞書に直接的な関係があったわけではなく、瑜伽行派による術語解釈が一般に受け入れられやすい説を採用していることを意味するものであり、脱伝統説の傾向を示す点で重要である。 2.南伝のパーリ仏教に見られる教理分析や術語解釈と比較すると、ブッダゴーサによって再評価された解釈が、『倶舎論』以降の北伝アビダルマ文献に反映された可能性が考えられる。ブッダゴーサはヴァスバンドゥとほぼ同時期(五世紀頃)に活躍した学者であり、同時期の思想動向が北伝・南伝の双方に影響を与えている可能性が予想される。 今後、全インド文化圏・仏教文化圏的視点で考察する必要性を示唆する点で極めて重要である。 3.資料整理の過程で、『瑜伽師地論』の未校訂テキストを一部校訂した。(これを含む論文は『南アジア研究』掲載のため査読中。)
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