2008 Fiscal Year Annual Research Report
近代国家の動力因としての「生きる権利」の保障に関する歴史研究
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20530009
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
波多野 敏 Okayama University, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (70218486)
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Keywords | 法制史 / フランス法制史 / フランス革命 / 生存権 |
Research Abstract |
本年度は、フランス革命期のうち、1792年に王政が崩壊し共和政となった後に、国民公会において制定された憲法をめぐる議論における「生きる権利」の位置づけ・性格などの検討、および同時期に制定された各種の公的扶助制度の理論的基礎を検討した。このために、当時の議会の議事録、主たる政治家たちの議論を検討し、また秋には、フランス国立図書館において関係資料の調査を行った。 以上の調査・研究から、革命期の国民公会のもとで定められた公的扶助制度や、その基礎となった「生きる権利」は、基本的に1789年からの議論の延長線上に位置づけられるが、扶助制度だけが単独で考えられるのではなく、財産所有や労働による生存の確保と密接な関係のもとに置かれていることが明らかとなった。したがって、扶助の問題も、所有・労働・扶助という三つの観点から総合的に考察する必要であること、つまり、当時の経済政策、土地政策との関連の中で考えることが必要であることがあきらかになった。革命期にも「生存権」的な議論はあり、国民の生存を保障することは新しい国民国家の基本的な課題であるとの認識もあったが、こうした生存の保障は、かならずしも現代的な社会権や労働権といった形で考えられていたわけではないのである。 経済政策や土地政策は、山岳派独裁期の政治状況の中で政策的な変動も大きいが、今後は、この時期の公的扶助制度を、当時の政治的議論の中でより具体的に位置づけ、考察してゆくことが求められるが、これについては現在論文を執筆中である。こうした作業をすすめてゆくことによって、フランス革命期の国民国家が、単純な自由主義でもなければ福祉国家でもない、歴史的に独自の特色を持った性格があることが明らかにできると考えられる。
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