2010 Fiscal Year Annual Research Report
近代国家の動力因としての「生きる権利」の保障に関する歴史研究
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20530009
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
波多野 敏 岡山大学, 大学院・社会文化科学研究科, 教授 (70218486)
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Keywords | 基礎法学 / 法制史 / 西洋法制史 / フランス法 / フランス革命 / 生存権 / 公的扶助 |
Research Abstract |
本年度は、革命期公的扶助制度を現実化していった山岳派独裁期を中心に、国民公会が公的扶助制度の問題に取り組み、現実化していった要因を検討するため、この時期の政治的経済的状況との関連を視野に入れつつ、制度の理論的基礎および制度の構造を整理した。具体的な作業としては、Archives parlementairesなどの議会資料を検討したのに加えて、コード・ドール県、ローヌ県の古文書館において調査を行い、当時の公的扶助制度の運用に関する行政文書について検討した。 この結果、次の点が明らかにできた。一七九二年末から土地配分や経済統制をめぐる議論が高まるとともに、生存の権利や具体的な生存保障のあり方をめぐる議論もまたいっそう活発になってくるなかで、一七九三年三月一九日法は公的扶助制度の基本的な骨格を定め、その後、具体的な扶助制度が制度化されていった。また、一七九三年人権宣言に公的扶助に関する規定が置かれたことも、一七八九年の人権宣言とは異なる大きな特徴である。 しかし、扶助制度の具体的な内容については、立憲議会における救貧委員会の議論と大きな差があるわけではないこともまた確認できる。一七九三年四月のジロンド派人権宣言と六月の由岳派人権宣言では、山岳派人権宣言の後段で社会が公的扶助という義務を果たすためのより具体的な方策が規定されているが、これもまた革命初期以来の議論で確認されてきたことと変わりはない。制度についての基本的な考え方としては、立憲議会に報告された救貧委員会が提示した考え方が踏襲されている。 公的扶助制度が実現していった背景としては、この時期ロベスピエールらが実権を握り、すべての領域を政治化していった恐怖政治の影響は大きく、それは具体的な制度を論じるときにも総論的な部分には現れているが、制度の具体的な内容としては、立憲議会の議論の延長線上にあるものと考えられる。
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