Research Abstract |
本年度研究計画の第1の目的であった,平成20年度に収集した資料の解析については,ほぼ目的を達した。エジプト,シリア,レバノン,イラクについては,民法典の立法史に関する基本的な情報を得た。 本年度研究計画の第2の目的であった,補足的資料収集については,以下の海外調査を行った。 (1) 2010/1/3-10フランス国立海外県文書館(Archives Nationales d'Outre-Mer)において,シリア,レバノンのフランス委任統治期の法的状況に関する資料を収集した。その結果,委任統治当局の立法政策は両国における1930年代以降の法改革に対して予想以上に大きな影響を及ぼしていることが判明した。この点については,英保護領時代のエジプトとの比較が有意義であろう。 (2) 2010/2/7-14アメリカ議会図書館(Library of Congress)において,主としてイラク民法に関する資料を収集し,その性質や制定過程に関する補足的情報を得た。 また,リビヤ民法についても,国内外において若干の資料の所在を確認できた。 本年度の研究計画の第3の目的であったオスマン法の分析については,従来の研究においては一般に,とりわけ1858年オスマン土地法典の研究対象諸国の民法典に対する影響が指摘されているものの,イスラーム法の影響と同程度に精査を要することがわかった。例えば,シリア,レバノンの物権法の共通のモデルとなった1930年11月12日法は,フランス政府が保護領モロッコに導入した法のコピーである可能性がある。 以上については,下記「研究発表」欄に記載した口頭発表を行った。 また,本年度中には刊行に至らなかったが,エジプト民法におけるイスラーム法の影響の批判的考察をテーマとする英語論文("Pre-emption and private landownership in modern Egypt : No revival of Islamic legal tradition")を作成し,直接経費の一部を用いて校閲のうえ,Islamic Law and Society (Brill)に投稿し,改稿を条件とする掲載許可を得た。現在,その改稿にあたっている。
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