2008 Fiscal Year Annual Research Report
「自律」を支えるものとしての、労働に関する権利-「個人の尊重」を解釈基準として-
Project/Area Number |
20530028
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
押久保 倫夫 Tokai University, 法学部, 教授 (30279096)
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Keywords | 労働に関する権利 / 個人の尊重 / 自律 / 人間の尊厳 / 陶冶 |
Research Abstract |
本年度は、本研究の中心概念である「個人の尊重」及び、それと深く関係する「人間の尊厳」の理解を深め、それに基づく憲法上の「労働に関する権利」の解釈の指針を探求した。『ドイツの憲法判例III』に掲載した、4つのドイツ連邦憲法裁判所の判例評釈は、いずれも「人間の尊厳」乃至はそれと密接に関係する「一般的人格権」についての判決に対するものであり、その中には、日本の「個人の尊重」を基本理念として判断する場合との比較検討を行なったものもある。「Die Achtung vor dem Individuum und die Wurde des Menschen」では、日本国憲法に文言として存在しない「人間の尊厳」は、憲法13条のほか、18条、36条、25条と密接な関係を有することを確認し、当該概念をそれら全体から解釈として演繹されるものとして位置づけ、これを「公共の福祉」の一内容として機能させるべきことを示した。 「沈黙する者へのパターナリズム-遺伝子操作の限界としての『個人の尊重』と『人間の尊厳』-」においては、現在極めて多くの議論が戦わされている「遺伝子操作」についてその限界を明らかにした。そこでは、日本では「人間の尊厳」は、侵害される主体が特定できしかも人間であることが明らかな場合で「客体定式」が当てはまる時のみ、当該概念を制限規範として用いるべきことを示し、遺伝子操作でこれに当てはまる場合を明らかにした。そしてそれ以外の領域では、「個人の尊重」によってその是非を判断すべきであり、しかも遺伝子を選択する親の側ではなく、「生まれ来る子ども達」の方を基軸にすべきことを指摘した。さらに遺伝子操作を、意思の表示できない彼らに対するパターナリズムと捉え、これに基づき個々の遺伝子操作の許容範囲について、具体的に明らかにしていった。 以上のように「個人の尊重」と「人間の尊厳」の制限規範としての相違を明らかにしたことにより、憲法上の「労働に関する権利」においても、同様にして権力関係を抑制し自己を陶冶して自律を図るものとしての側面を剔抉するという、指針の一つを得た。
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Research Products
(3 results)